• 台湾進出の法的リスクと対応策その1 進出形態

    台湾は「身近な外国」として、日本企業にとって最も進出しやすい国の一つです。しかし、安易にビジネスを開始すると、思わぬトラブルに巻き込まれたり、多大な損害を被ったりする危険が高まります。実際、筆者のもとにはそのようなご相談が数多く寄せられています。台湾進出にはどのような法的リスクがあり、それに対してどのように対応すれば良いのでしょうか。

    まず、自社の想定しているビジネス形態に適合した進出形態(ビジネススキーム)はどのようなものなのかを見定めることが肝要です。適切な選択を行うためには、どのような進出形態があり、それぞれについてどのような特徴があるのかを把握しておく必要があります。

    【台湾進出の様々な形態】

    一口に台湾進出と言っても、以下のように様々な進出形態が考えられます。下に行くほど台湾市場との関わり方が深くなります。

    ・ 物品の輸出入(物品売買)
    ・ 間接投資(生産委託、代理店・販売店、技術供与)
    ・ 直接投資(自社拠点設置、合弁企業設立)

    各進出形態の内容によって着目すべきポイントも異なってきます。各形態のうち代表的なものについて重点的に見てみましょう。

    1 台湾への物品の輸出

    台湾進出の最もシンプルな形態は、物品を日本(あるいは第三国)から台湾に輸出し、あるいは台湾から輸入する取引です。特に台湾への輸出を検討している場合、以下の3点に注意が必要です。

    (1) そもそも当該物品は台湾への輸出が可能か

    台湾国際貿易局は安全上の理由等から輸入規制品目を設けています。JETROのウェブサイトでも確認が可能ですので、必ず最新版をチェックするようにしてください。

    (2) 代金の回収リスク

    輸出入取引においては、物品輸送の都合からタイムリーな代金決済が難しくなるので、送金による決済を行う場合は、送金と物品授受の先後関係を契約で決めておかなければなりません。代金前払いにすると輸入者が商品を入手できないリスクを負う一方、代金後払いにすると輸出者が代金を回収できないリスクを負うことになり、いずれも偏りが生じます。代金の一部を頭金で前払いし、残金を商品受取後に支払うようにするなど、双方にとって納得できる形を契約で定める工夫が必要になります。

    このように送金による決済は使い勝手が悪いところがあるので、ある程度の取引規模になると、双方の取引銀行を介在させた信用状(L/C)を利用する機会が多くなります。信用状取引は手続がやや煩雑であり、銀行の手数料等のコストもかかりますが、海外取引ではいったん未収債権が発生すると事後的に回収することが非常に困難であることを考えると、信用状による決済を行うことは債権回収リスクを防ぐための合理的な選択と言えます。

    (3) 製造物責任リスク

    台湾には日本のような製造物責任に関する特別法はありませんが、民法に製造物責任に関する規定があり(台湾民法191条の1)、製造したメーカーは「製品の通常の使用又は消費により他人に生じた損害」について賠償責任を負うとされています。さらに、台湾の消費者保護法は、製造メーカーに故意があった場合は損害額の3倍まで、過失の場合は損害額の1倍までの懲罰的賠償請求を認めており(台湾消費者保護法51条)、日本よりも厳格な規定となっています。したがって、工業製品を輸出する場合は、台湾で当該製品の瑕疵を原因とする事故が起きたときに備えて、海外PL保険に加入することを検討してください。

    2 代理店、販売店の起用

    物品輸出よりも一歩進んだ形として、台湾に自社の生産拠点、営業拠点、販売拠点等を構える方法があります。その中でも特に多いのが、台湾のパートナーに代理店、販売店になってもらうやり方です。現地の企業や事業者との間で代理店契約や販売店契約を締結し、相手方に一定の権限を付与して自社の営業の一部を担ってもらいます。契約書においては、単純な物品取引よりも詳細に、販売戦略や双方当事者の役割分担について具体的に定めておく必要があります。

    (1) 代理店と販売店の違いは?

    まず、代理店(Agent)と販売店(Distributor)の違いをしっかりと理解しておく必要があります。代理店(Agent)は当社のために販売の仲立ちをする役割を担うものであり、顧客に対して商品やサービスを提供するのはあくまでも当社です。つまり、顧客から販売代金を回収できないリスクは、当社が負担します。代理店は、物品売買により直接利益を獲得するのではなく、販売に対する手数料(commission)という形で利益を取得します。

    一方、販売店(Distributor)は、当社から商品を仕入れ、直接顧客に対してその商品を販売します。販売店は顧客から販売代金を回収できないリスクを負担しますが、その分、販売価格などを決定したり、自由に販促活動を行ったりして、最終的には物品売買による利益を直接獲得することができます。

    このように代理店契約と販売店契約は本来的には全く異なる性質を持つものですが、現実には両者が混同されていたり、「提携契約」「特約店契約」などという名称で趣旨不明確な契約が結ばれていたりするケースが少なくありません(筆者は「販売代理店契約」なる契約書を見たことがあります)。このような契約は、内容の不明確性からトラブルを生む可能性が極めて高いものです。自社が想定している取引形態がどのようなものなのかを明確にして、それを正確に反映させた契約書を作成しましょう。

    代理店と販売店の比較

    (2) 独占権の取り扱い

    もう一つ注意すべきは、代理店にしろ販売店にしろ、相手方に独占権を与えるかどうか、(独占権を与えるとして)その範囲をどうするかです。台湾側のパートナーは、自社の優位性を確保するために独占権を要求して来ることが多いでしょう。これに対して、台湾進出を企図する当社としては、相手が本当に最良のパートナーかどうかわからない段階で独占権を付与するのは避けたいという思惑が働くことがあります。また、独占権を付与するにしても、第三国への展開プランに応じて、独占権の範囲をどのように設定するか(全世界、アジア、台湾、台湾の中の特定の地域など)が異なって来る可能性があります。

    最終的には自社のビジネス展望をベースに相手方と協議して決めるしかありませんので、契約交渉の初期段階から独占権の取扱について協議を尽くしておくことが望ましいです。

    3 現地拠点の設立

    台湾への進出形態で最も現地に深く関わるのが、台湾に営業所や現地法人を設立したり、台湾(あるいは第三国)の企業と協力して合弁企業を立ち上げる方法です。日本企業や事業者が台湾で営業所や現地法人を設立する手続は、手続内容や期間、難易度など、日本国内におけるのとほぼ同様と考えて良いです。ただし、台湾で合弁企業を設立する場合は、法人設立手続そのものよりも、合弁相手との間での合弁契約の内容調整(交渉)の点で慎重な対応が必要となることに注意が必要です。この点については個別の論考をご参照ください。

    台湾法人(合弁企業の場合も含む)の運営方法は台湾の会社法で規律されており、その規律内容も日本とほぼ同様です。ただし、董事長(日本で言う代表取締役)と総経理(日本で言う支配人、CEO)の地位が区別されている点や、取締役会、株主総会の決議要件が若干異なる点など異なる点もあります。会社の支配権を巡る局面においてどのように振る舞うべきかについて、そのような差異が決定的な意味を持つ場合も少なくありませんので、「日本とは違うかもしれない」という感覚を忘れずに、常に注意を払っておくべきです。

    【最適な進出形態は何か】

    自社にとって最適な進出形態をどのように判断すればよいのでしょうか。筆者の経験からすると、次の3つのポイントを抑えることが重要です。

    ① 各形態の内容を正しく理解する
    ② 台湾以外の第三国への進出の可能性を視野に入れる
    ③ 進出だけでなく撤退する場合も想定する

    ①各進出形態の内容については、本稿の前半部分で見たとおりです。②第三国への進出可能性ですが、台湾進出が単に台湾市場内で完結する事業展開としてのものなのか、それとも台湾以外の第三国への展開も想定してのことなのかによって、あるべき進出形態も変わってきます。例えば、台湾企業に自社製品の販売委託をする(販売店契約を締結する)場合、当該台湾企業に独占権を付与するか否かが重要な要素になる点は先述のとおりですが、これは正に自社のその後の事業計画から逆算して判断すべきこととなります。また、台湾で合弁企業を設立する(合弁契約を締結する)場合、競業避止義務の範囲を台湾国内に限定するか第三国にまで広げるかといった点にも影響します。

    ③撤退については、これから台湾に進出してビジネスチャンスをつかみ取ろうとしている状況に水を差すようで恐縮ではありますが、やはり台湾での事業展開が思うように行かなかった場合の撤退シナリオも考えておくべきです。いざというときに速やかに撤退できなければ、損失拡大を防ぐことはできませんし、深手を追う前に引き下がって再起を図ることも困難になります。冒頭でご紹介したとおり、進出形態ごとに見ると、物品の輸出入、間接投資、直接投資の順に台湾市場との関わりが深くなります。これはその分、撤退も難しくなることを意味しますので、契約交渉及び契約書作成の段階で慎重に交渉を重ねて、なるべく自社の判断で契約関係を解消できる途を確保しておく努力が必要になります。

    以上のような点を総合して、自社の想定しているビジネス形態に最も適合した進出形態を見定めるようにしましょう。

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