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台湾進出の法的リスクと対応策 契約、知的財産

※ この記事は旧サイトで公開していたものを修正してリニューアル掲載しています。

日本企業が台湾進出するにあたっては、どのような法的リスクがあり、それに対してどのように対応すれば良いのでしょうか。本稿では、契約、取引に関するリスクと、知的財産に関するリスクを取り上げます。

契約に関するリスク

日本企業が台湾に進出するにあたっては、進出形態のいかんに関わらず、台湾のパートナー企業あるいは契約相手との間で具体的な取引内容について交渉し、契約を締結する必要があります。ここでは、契約交渉と契約書という二つの観点から注意点を取り上げます。

契約交渉の注意点

台湾進出に限った話ではありませんが、いつもはきちんと契約交渉を行っている企業であっても、海外取引に関しては「特別なもの」という感覚に引きずられて注意を怠り、国内取引ではあり得なかった契約交渉上のミスを犯してしまうということがあります。例えば、「台湾法人のA社と契約しようと思っていたが、いつの間にか出てきた別の国のB社と契約していた」とか「C社の代理人と称する者と交渉していたが、実はC社とは全く関わりのない人物だった」ということが起こり得るのです。

しかし、台湾進出の交渉であっても、国内取引の場合と同様「契約交渉」であることには変わりありません。先ほどの例で言えば、交渉の席に出てきた相手がどのような立場にあり、どのような権限を持っているのか確認するなど、当たり前のことをして交渉に臨むべきです。その他、敢えて取り上げるまでもないことかもしれませんが、契約交渉における注意点を挙げておきます。

・誰と契約するのかに気をつける(契約相手を間違えない)
・いつ、どこで、誰と交渉するのかを意識する
・契約交渉を人任せにしない
・契約交渉過程を議事録に残しておく
・契約(契約書)の骨子を想定して交渉にあたる

契約書の作成

台湾でも、日本と同じように口頭合意だけで契約が成立します。また、台湾でも、特に小規模事業者は契約書を作成せずに取引を行うことが珍しくありません。しかし、日本企業が台湾企業と取引を行う場合、考え方の違いから契約内容を巡って争いになる可能性は低くありませんし、実際に紛争になった場合の対応は国内取引よりも難易度が高くなります。

したがって、交渉の末に取引内容が確定しても、それだけで安心してしまうのではなく、しっかりと契約書を作成することが重要です。契約書を作成する意義については別稿「契約書の必要性と作成方法」を御覧ください。相手の規模や属性に関わらず、契約書を作成して取引するということを徹底しましょう。台湾の取引相手が契約書の作成について何も言ってこない場合でも、当方から提案して契約書を作成するようにしてください。

台湾企業との間で契約書を作成する場合の使用言語は、日本語、中国語、あるいは英語(世界共通言語に準ずる位置付けとして)が考えられます。特定の言語を使わなければならないというルールはありませんので、両当事者の力関係や取引内容によって、どの言語を用いるのか、あるいはどの言語のバージョンを正本とするのかを決めることになります。

ただし、中国語や英語を用いる場合については、日本語版翻訳を作成して、経営者や決裁権限ある者が母国語である日本語で契約書の記載内容をチェックすることを是非とも推奨します。これをしないで中国語や英語のみで契約書作成の過程を済ませることは、相手の土俵で相撲を取るようなものであり、自社の権利・利益の確保に無頓着であると言わざるを得ません。

知的財産に関するリスク

日本企業が台湾のパートナー企業に対して知的財産の使用を許諾する場合、知的財産の保守について細心の注意を払う必要があります。特許・実用新案・意匠、商標、ノウハウ(営業秘密)といった知的財産は目に見えないものであり、第三者による模倣や流出という形で侵害されやすく、かつ、一度侵害されると阻止や回復をするのが困難だという特性があります。このような知的財産リスクに対応するにはどうすればよいでしょうか。

知的財産の保守方法

特許と商標は世界各国で法律による登録制度が整備されていますが、世界共通の「国際特許」「国際商標」というものは存在せず、特許権や商標権は国ごとに発生します。したがって、特許や商標を台湾で用いる場合には、日本だけでなく台湾でも登録しておくことが望ましいです。

一般に、特許に関しては特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)、商標に関してはマドリッドプロトコルにより外国出願の仕組みが整備されていますが、台湾はいずれにも加盟していませんので、台湾で独自に出願することが必要となります。

一方、ノウハウというものは言わば企業秘密そのものであり、登録という形で法律の保護を受けることができません。企業が契約によって自己防衛することが基本となります。また、技術流出や模造を防止するために、コアとなるノウハウについてはなるべく日本国内だけで用いるようにすることも有効です。

例えば、製造メーカーが台湾に製造拠点を作る場合、敢えて部品ごとに別々の台湾企業にライセンスして製造委託し、日本から輸出するコア製品と台湾で製造した部品を組み合わせて製品を完成させるという戦略が考えられます。知的財産保護の観点から台湾進出スキームを組み立てるわけです。

台湾における知的財産法制

台湾の知的財産法制は全体的に日本のそれと類似していますが、当然ながら異なっている点も多々あります。以下、簡単に全体像を整理しておきます。

・日本では特許法(発明に関するもの)、実用新案法(新型に関するもの)、意匠法(設計に関するもの)というふうにそれぞれ異なる法律が諸規定を定めていますが、台湾では「専利法」が上記の全てを規律しています。

・商標については台湾でも「商標法」が規律していますが、日本の商標法が保護の対象としている文字、図形、記号、立体的形状、色彩等に加えて、動き、ホログラム、音声、位置、匂い等も広く保護対象としています。

・他人の指名、照合、会社名称、商標、商品の容器・包装、外観、又は他人の商品・サービス・営業を表示するなどして模倣した者に対しては、台湾の公平交易委員会(日本の公正取引委員会に相当する機関)に告発状を提出し、行為者による行為を禁ずる行政処分を求めることができます。

・その他、台湾知財法制における模倣品対策としては、商品表示法、食品衛生管理法、消費者保護法といった各法律による救済措置の制度があります。

ライセンス契約における注意点

台湾の取引相手に自社の特許、商標、ノウハウといった知的財産のライセンスを付与する場合、ライセンス契約書をどのように作るかが問題となります。特に重要なのは、許諾に関する条項、ロイヤルティに関する条項、秘密保持に関する条項の3つです。

 (1) 知的財産の使用許諾(ライセンス)に関する条項
自社の知的財産について相手方にその仕様を許諾する(ライセンスを付与する)としても、その範囲や条件をどのように設定するかはよく考える必要があります。例えば、許諾の対象が特許や商標といった権利化されたものではなく自社のノウハウや技術である場合には、台湾のパートナー企業に対して技術指導などを行うことで初めて伝授可能となるため、その手順、範囲、実施方法等を契約書で厳密に定めておく必要があります。その他、以下のような点について契約書に具体的に記載することが重要です。

・対象内容:ノウハウについては特定が重要
・範囲:全世界、台湾のみ等
・条件:販売のみ、製造のみ等
・譲渡や再許諾の可否

(2) ロイヤルティに関する条項
台湾では法律でロイヤルティの定め方が規制されているということはありませんので(ただし公平交易法による不公正取引の記載はあります)、当事者間の合意により自由にロイヤルティを設定することができます。ロイヤルティの定め方、具体的な支払時期、支払方法等について細かい点まで交渉を尽くし、合意に至ったらその内容を契約書に明記しておくべきです。

ロイヤルティの定め方としては、定額性、出来高性など様々な形態がありますが、特に出来高性の場合は、計算に疑義が生じる可能性を防止するための配慮が必要となります。

(3) 秘密保持に関する条項
ライセンスの対象となる知的財産はもちろん、取引上開示される自社の営業秘密(例えば顧客リスト)については、取引基本契約に秘密保持条項を規定したり、秘密保持契約を単体で締結するなどして、他に漏らしてはいけない秘密として保護されるようにしておく必要があります。

また、万が一、秘密漏洩や競業行為があった場合は直ちに相手方の行為を阻止するとともに損害賠償請求できるように、契約書で違約条項を定めておくべきです。

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