投稿一覧

合弁契約における注意点 合弁契約とは?

合弁契約とは

複数の当事者(個人、企業のいずれも含みます)が提携して新しい事業を開始することはよくありますが、このうち、各当事者が共同出資(資本参加)して法人を立ち上げて事業を行う場合、その法人のことを「合弁企業」とか「ジョイントベンチャー(JV)」などと呼びます。

合弁企業を設立して事業を開始するために、合弁当事者間で締結する契約が「合弁契約」です。

合弁契約の特徴

合弁契約は、合弁事業に参加する各当事者の役割を定め、各当事者が負う責任や得られる利益の範囲を明確にし、合弁事業が円滑に進むようにするための取り決めです。

合弁契約の特徴としては、第一に、少数出資者(合弁当事者)であっても、その者が提供する経営資源が重要である点に重きを置いて、合弁企業の意思決定に関して法令の規定以上の権利を与えることが多いということがあげられます。この点で、単なる技術提携のような契約形態とは一線を画します。

第二に、各合弁当事者が合弁会社に対して提供する技術、人材、資本、営業ノウハウなどの経営資源について配慮する必要があります。合弁契約とは別にそれぞれについて個別の契約(例:ライセンス契約、出向契約、物品販売)が結ばれることになるため、その個別契約の条件についての考え方(例:独占販売権を認める)を合意しておく必要があります。

第三に、複数の当事者が言わば運命共同体として合弁企業を立ち上げる以上、合弁企業の維持のために合弁当事者の競業避止義務や株式譲渡制限を定める必要があります。一方、合弁事業への参加を未来永劫強制することは適切ではありませんので、合弁当事者の合弁企業からの撤退事由や手続も定めなくてはなりません。

合弁契約書にはどのようなことを記載するのか

以上のような特徴から、合弁契約書においては、合弁会社の概要、事業の運営方針、組織構成、意思決定方法、合弁事業の解消方法などについて詳細に規定します。一般的な合弁契約書の構成は以下のとおりです。

1 合弁の目的、会社名、組織形態
2 合弁会社の機関設計、役員構成
3 合弁会社の意思決定方法
・ 株主総会
・ 取締役会
4 合弁会社の事業運営
・ 事業計画
・ 合弁当事者と合弁会社との間の契約
・ 資金調達
・ 剰余金の配当
・ 競業避止義務
5 財務情報等の提供
6 合弁会社の株式の譲渡
・ 株式の譲渡制限
・ 合弁契約上の地位の承継
7 契約期間
8 契約解除
9 撤退条項
10 一般条項

どのような点に注意すべきなのか、順に見てみましょう。

合弁の目的

多くの場合、合弁契約書の冒頭で、そもそもの合弁事業の目的を記載します。これにより当事者の権利義務の内容が確定するわけではありませんが、契約書の個別条項を規定ないし解釈する際の指針となるべきものなので、当事者間で確認した合弁の目的を明確に記載してくことが望ましいです。

出資方法・出資比率

出資方法としては、各合弁当事者が現金を出資し合う形態が最も多いですが、合弁当事者の一部が既に現地に工場をもっている場合などに現物出資の手法を用いる場合もあります。

出資比率は、株主総会や役員会の構成、ひいては会社の支配権(意思決定権)に直結するため、各合弁当事者の経営理念や資金状況、力関係など様々な事項を考慮した上で、合弁当事者間の協議により慎重に決めます。

機関設計、役員構成

合弁契約においては、合弁企業の役員総数及び各合弁当事者が指名する役員の人数を定めることが多いです。各合弁当事者が指名する役員の人数は、通常、各合弁出資者の出資比率に応じて定められます。そのため、合弁開始後に出資比率に変動が生じた場合の対応についても決めておく必要があります。合弁当事者の意見調整のために、運営委員会などの法律に規定のない任意の機関を設けることもあります。

意思決定方法

合弁企業における意思決定は多数決によることが通常であるため、少数派株主(合弁当事者)にとっては、多数派株主(合弁当事者)のほしいままに意思決定がなされることを防ぐことが重要となります。そこで、法律による規定よりも、株主総会や取締役会の開催要件・決議要件を加重したり、少数株主の権利を拡大することを希望したりすることが多くあります。

他方で、意思決定の方法をあまりに厳格にすると、合弁当事者間の意見の食い違いを解消できない場合(いわゆるデッドロック)が生じ易くなり、円滑な合弁事業運営に支障が出てしまいます。

このようなことから、意思決定方法に関する定めは、合弁契約における最も重要なポイントの一つであり、丹念に交渉して全当事者が納得できるような体制を見つけ出す必要があります。

事業計画

合弁契約では、合弁企業における初期段階の事業計画の基本的事項を合弁当事者間の合意として合弁契約の一内容とした上で、さらにその後の事業計画についても決定方法を定めておくことが多いです。筆者が経験した事例では、3ヶ月毎に事業計画を見直すという規定を置いたケースがありました。

また、合弁当事者にとっては、合弁事業に資本をどの程度投下し、それをどのように回収するか、どのように利益を獲得するかが重大な関心事です。したがって、合弁事業開始時のみならず、その後の合弁企業の運営に関しても、運転資金の調達方法(追加出資、社債発行、借入)や配当政策等について合弁契約で合意しておくことが望ましいです。

合弁会社と合弁当事者との契約

合弁当事者は、それぞれが有している経営資源(原材料、設備、人材、特許、ノウハウ、販売ルート等)を合弁企業に提供することで利益を得ようとしていることが通例です。そのため、合弁当事者にとっては、合弁企業との個別具体的な契約において可能な限り利益を確保できるような取り決めをしておくことが重要です。

このようなことから、合弁契約書においては、合弁企業と合弁当事者の契約条件(原材料供給、製品販売、出向、ライセンス、工場建設など)について合弁契約書で規定しておくことが多いです。特定の取引について合弁当事者が優先的契約権や独占権を持つという形で規定することが多いですが、より具体的に、契約目録を添付して個別具体的な契約条件を規定しておく場合もあります。

ただし、内容によっては独占禁止法や不正競争防止法に違反する場合があるので、注意が必要です。

競業避止義務

合弁当事者が共同して合弁事業を営む以上、各合弁当事者が勝手に合弁会社の事業と競合する事業を行うことが禁止されるのは当然です。そのため、合弁契約においては、通常、各合弁当事者の競合を禁止する規定が設けられます。

競合禁止の範囲については、禁止する事業の範囲、期間、地理的範囲、事業形態などについてできる限り明確にしておくことが望ましいです。

譲渡制限条項

合弁当事者が株式を第三者に譲渡して簡単に合弁事業から撤退することを許すと、合弁事業の運営が安定しなくなります。他方で、合弁契約のときと同じ状況を未来永劫継続しなくてはならないとして合弁当事者を拘束することは酷であり、合弁事業の運営を硬直化させる原因にもなり得ます。

そこで、合弁契約においては、株式譲渡制限条項を設けて、少なくとも一定期間は他の合弁当事者の同意がなければ株式を譲渡することができないとするのが通常です。

また、株式譲渡により合弁当事者が交代したからといって合弁契約が無効になってしまっては合弁事業の存立根拠自体が危うくなることから、通常は、合弁契約において、株式譲渡した場合でも、譲受人に合弁契約上の当事者の地位が引き継がれ、譲受人は合弁契約の条項を遵守する必要があると規定します。

合弁解消条項

合弁事業が未来永劫続く保証はどこにもなく、合弁企業において期待通りの利益が出なかったり、意見に食い違いが生じたりした場合に、合弁事業に参加している一当事者のみが撤退を希望することがあります。このような事態を想定して、合弁契約において撤退のルールを定めておくことが重要です。

契約書上、撤退できる場合として盛り込まれる事由としては、以下の様なものが考えられます。
・ 合弁当事者間の意見の食い違いを解消できない場合(いわゆるデッドロックが生じた場合)
・ 一定期間内に業績目標を達成できなかった場合
・ 一定額以上の累積損失が生じた場合
・ 合弁当事者において支配権の異動が生じた場合
・ 他方当事者が合弁契約違反をした場合

合弁当事者が合弁事業から撤退する場合、事業継続を希望する他の合弁当事者に株式を売却する方法(先買権、優先買取権)が定められることが多いです。この場合、株式を時価で売買することは必ずしも適切ではないため、株式譲渡価格の決定方法についても契約書において定めておく必要があります。

【関連記事】
合弁契約における注意点 合弁契約とは?
合弁契約における注意点 交渉の手順と方法

PAGE TOP