※ この記事は旧サイトで公開していたものを修正して再掲載しています。
(初掲載2015年12月5日、リニューアル掲載2021年5月23日)
私は、2014年8月から1年間、台湾に留学していました。旧サイトで連載していた留学体験記は、好評につき連載終了後にKindle書籍「或る弁護士の台湾留学体験記:中国語と法律365日」として刊行するに至りました。書籍化したことでサイトでの連載の役割は薄まったようにも思いますが、今尚、留学に関する情報収集で私のサイトを訪れてくれる方も少なくないので、新サイトでもリニューアルして再掲載することとしました。今読み返してみると随所に隔世の感があることは否めませんが、当時の自分が体験した「リアル」をそのままお伝えするために、敢えてあまり手を加えないで掲載しています。
なお、この連載に大幅加筆して通読に耐えるようにしたのがKindle書籍「或る弁護士の台湾留学体験記:中国語と法律365日」ですので、是非こちらもよろしくお願いいたします。
まさか自分が留学に行くなんて・・・
私は学生のころから、弁護士として国際的な仕事に携わってみたいという漠然とした思いがありました。そのころ頭の中にあった「海外」というのは欧米でしたが、圧倒的な規模とスピードで世界を席巻する中国もまた、強く意識する対象でした。もっとも、決して英語が得意ということではなく、中国語も大学で第二外国語として選択していたものの、全く真剣に勉強しておらず簡単な挨拶をするのがやっとという程度でした。つまるところ、私にとって海外留学とか渉外業務というものは、真剣に打ち込むべき具体的な目標というよりも、いつか機会があれば覗いてみたい遠い世界の出来事という意味合いにすぎませんでした。
2005年に司法試験に合格して2007年9月に弁護士登録をしました。所属事務所には渉外業務もあるにはありましたが、私は国内業務に専念していました。弁護士としての実務処理を身につけるだけで精一杯で、語学などの自己研鑽をする余裕もなく、渉外業務に積極的な関心を持つ状況ではありませんでした。
台湾のシンボル「台北101」
中国語を習ってみた
少しずつ仕事にも慣れだしたころ、たまたま所属事務所内で中国語のミニ勉強会のようなものがあり、大学時代以来、久しぶりに中国語に向き合う機会がありました。すると、仕事の合間の気分転換としてちょうど良かったのか、昔は全く興味が湧かなかった発音や会話の練習がなぜか新鮮で、とても面白く感じました。以降、趣味として、細切れの空き時間で少しずつ中国語を勉強するようになりました。
当時は中国語を真剣にマスターしようとか、中国関連業務に進出しようとかいう思いはありませんでしたので、仕事が忙しくなってやる気が低下したり、何ヶ月も勉強を中断したりして、中国語の実力はそれほど伸びませんでした。
東日本大震災のときに思ったこと
そのような状態が2年ほど続いたころ、2011年3月、東日本大震災が発生しました。東京でも交通機関の麻痺や建物の崩落など直接的な被害が発生しましたが、私にとって何よりも影響が大きかったのは、従来から継続していた弁護士業務がほとんどストップしてしまったことでした。裁判や打ち合わせの予定は全て延期になり、仕掛中の作業は中断となり、夜の会合や会食なども自粛ムードが広がりました。
いささか奇妙に映るかもしれませんが、私はこの地震をきっかけにして、中国語を習得して仕事に活かすことを真剣に志すようになりました。地震によって社会が大混乱に陥る様子を目の当たりにして、既存の体制や秩序に依存しない自分固有の専門領域を確立したいという思いが一気に増長しました。そして、私にとって一番身近な専門領域というのは、中国語というスキルとそれを用いた弁護士業務でした。震災後の混乱でスケジュールががら空きになり、中国語の勉強に打ち込む時間もありました。このようなことから、私は、遊び半分でやっていた中国語の勉強に真剣に取り組むようになりました。
独学の日々
幸いにも(と言うべきなのかはわかりませんが)弁護士業務は震災から半年も経たないうちに元通り忙しくなり、語学学校に通うような時間はなかったので、専ら市販のテキストを使って独学を続けました。出勤前や帰宅前にできる限りカフェに立ち寄って30分でも勉強するようにし、通勤の電車の中では必ず中国語会話の音声を聞くようにしました。遠方への移動や出張も良い勉強の機会でした。漫然と勉強しても長くは続かないということは経験済みでしたので、検定試験の合格を目標にしたり、毎日の学習成果を記録に残したりして、モチベーションを維持する仕組みを作りました。
長期休暇の際には中国や台湾を度々訪れて、自分の中国語がどの程度通用するのかを試しました。中国や台湾の都市には日本には無い活気が溢れており、また都会を離れると景色が一変してのどかな農村が広がり、その生々しいコントラストに魅せられました。生きる目標を見いだせず陰鬱な表情をしている人は少なく、むしろ毎日を一生懸命生きている力強さを感じさせる人たちが多くいました。私は、どんどん中華圏の魅力にはまっていきました。(続く)
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