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契約書の必要性と作成方法

契約書は全ての企業に共通する悩み

「契約書をどうやって作成して良いかわからない」
「本当に会社に有利な契約書になっているかわからない」

日頃、このような話を聞くことが多くあります。契約書は企業法務の基本であると同時に、全ての企業法務当事者の悩みであると言えそうです。そこで、本稿では、契約書を作成する必要性がどこにあるのかという点を確認した上で、契約書の作成方法についてまとめたいと思います。

契約書はなぜ必要か

1 口約束でも契約は成立する

そもそも、契約は例え口約束であって成立するものであり、一部の例外を除いて契約書の作成は必須ではありません。法的に見れば、一定の事項に関する「申込み」とそれに対する「承諾」があれば、その場で契約が成立します。「Aという商品を50万円で売ります」という口頭の申入れに対して、「(Aを50万円で)買います」と口頭で返事をすれば、その瞬間に「Aを50万円で売買する」という売買契約が成立したことになります。

売買契約が成立することで、売主には売買代金を請求する権利と目的物を引き渡す義務が生じ、買主には目的物の引き渡しを請求する権利と売買代金の支払義務が生じます。これは、口約束であっても契約書に基づく契約であっても、全く変わることはありません。

2 口約束ではフォローできない契約書の役割

それでは、なぜ契約書を作成する必要があるのでしょうか。

第一に、取引条件を明確にして合意内容を確認するためです。口約束の場合、細かい取引条件について逐一確認をとることは非常に面倒ですし、内容を忘れないようにとどめておくことも困難です。そこで、当事者双方が合意した内容について相互に確認をとるために、契約書を作成する必要があります。

第二に、契約条件を少しでも有利にするためです。当事者双方が契約により合意した内容は、公序良俗やそれを具体化した強行法規に反しない限りで、法律の規定に優先します(これを「契約自由の原則」と言います)。つまり、契約の内容は、交渉次第である程度自由に自分の側に有利に設定できるのです。そこで、交渉の結果勝ち取った有利な条件を反故にされないように、契約内容を文書として固定化しておくことが必要となります。

第三に、紛争予防のためです。契約の内容が明確でなかったり、重要な事項について確認できなかったりすると、争いに発展する可能性が高くなります。これは見方を変えると、契約書の内容を工夫するだけで予防できるリスクが沢山あるということです。したがって、契約をめぐる争いを回避するために、契約書を作成して契約内容や契約に関する事実関係を明らかにしておくべきということになります。

第四に、紛争の早期解決のためです。不幸にして紛争に発展してしまった場合であっても、その解決指針や解決方法が契約書に記載してあれば、少しでも早期に紛争解決を図ることができます。また、仮に裁判で決着をつけなければならない事態になった場合は、契約書が最も重要な証拠となります。契約書は円滑な紛争解決のためのものでもあるのです。

このように、企業が安定した経営を行っていく上では、取引の規模や内容にかかわらず、全ての契約において契約書を作成することが求められます。実際に契約書の作成作業を進める上でも、「何のために契約書を作成するのか」という点を常に意識するようにしましょう。

雛形活用のメリットとデメリット

契約書には、法律上の作成ルールや制限といったものはありません。それでは、実際に契約書はどのように作成すれば良いのでしょうか。

契約書雛形の活用についてはネガティブな見解もありますが、筆者はむしろ雛形を積極的に活用することをおすすめします。雛形には先人の知恵が凝縮されていますので、雛形を活用すれば、一から契約書をつくり上げるよりもよほど効率良く、ミス無く作成作業を進めることができます。雛形と対照することで、契約書本文で記載する個別条項に過不足がないかをチェックするという使い方もできます。

もっとも、雛形は必ずしも今実際に行おうとしている取引にぴったり当てはまるとは限りません。必要な条項が抜けていたり、不必要な条項が入っていたりする可能性があります。

また、雛形は必ずしも自社に有利に作成されているものではありません。インターネットや書籍で公開されているものの多くは、どちらの当事者の利益も優先することなく公平な内容を定めています。しかし、実際のビジネスシーンにおいては、法律や判例に反しない範囲で自社の利益を最大限確保し、自社のリスクを最小限に抑えるような契約書を作成することが求められます。

したがって、雛形を使用する場合は、それが今回のケースに当てはまるものであるかをよく検討すると同時に、雛形というものはあくまでサンプルに過ぎないと考え、必要に応じて内容をカスタマイズすることが必須です。

契約書の作成手順

雛形を活用して契約書を作成する場合の具体的な手順は、次のとおりです。

1 雛形をそのまま使えるかどうかを検討する

今回検討している契約が定型的なものである場合、例えば、不動産の売買契約や賃貸借契約で特殊な条件などが無い場合には、標準的な雛形をそのまま活用できる可能性があります。一方、特殊な類型であったり細かい条件設定をする場合には、雛形をベースにしつつも大幅な修正が必要となることが多いです。まずはこの点を見分ける必要があります。

2 雛形の条項を活用できる部分と修正が必要な部分を選別する

今回検討している契約が定型的なものではなく雛形をそのまま活用できない場合でも、ベーシックな契約書の雛形や、比較的似ている契約類型の雛形を参考にすることはできます。そのような雛形を参考にする際は、各条項の中で活用できる部分とそうでない部分を選別し、必要に応じて修正を施すことが必要になります。

3 個別規定の条項を検討する

個別の条項を修正する場合には、以下の観点から検討します。

・ どういう場合に(要件)、どういう権利義務が生じるか(効果)
・ 取引の最初(契約開始)から最後(契約終了)までの一連の場面を網羅できているか
・ 自社に有利になっているか、自社の権利を守ることができているか

4 契約書の全体像をチェックする

最後に、一つの契約書として破綻が無いかをチェックします。ポイントは以下のとおりです。

・不明確な部分はないか
・矛盾はないか
・過不足はないか
・争いになった場合の指針を示すことができているか

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