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合弁契約の注意点 交渉の手順と方法

合弁会社・ジョイントベンチャーの設立時の不安要因

「合弁会社の設立を検討しているのですが、いったい何をどうすればよいのかさっぱりわかりません・・・」

合弁会社(※)の立ち上げについて、不安に満ちたご質問をいただくことが非常に多くあります。こういった不安の最大の要因は、合弁会社を設立する際のプロセスの全体像が見えないことです。実際、たとえ弁護士であっても、一度も合弁会社の設立に関与したことがない人であれば、手続を俯瞰してみることができず、自信を持って合弁契約書の作成補助業務を行うことは困難でしょう。逆に言えば、曲がりなりにも全体像を理解することができれば、合弁会社設立についての不安のかなりの割合を解消することができるはずです。そこで、本稿では、合弁会社設立までの過程を概観してみたいと思います。

※「合弁会社」とか「ジョイントベンチャー」「JV」などというのは全て同じ意味ですので、以下では「合弁会社」という用語に統一して記載します。

合弁会社設立までのロードマップ

合弁会社の設立に至るまでは、通常、次のような過程を辿ります。

・基本情報の調査
・提携手法、合弁形態の検討
・基本合意の形成と秘密保持契約の締結
・デューディリジェンス(DD)の実施
・合弁会社の基本的内容の決定
・合弁契約書の締結

以下、順に詳しく見ていきましょう。

基本情報の調査

合弁会社は、新しい事業を実現するために、複数の資本家、企業が共同出資して立ち上げるものです。事業計画や採算性についての検討だけでなく、経営方針や利益配分を巡る意見の食い違いや、ノウハウや秘密が合弁相手に盗用されたりする可能性をどのように回避するかといった、複数の出資母体が会社経営に関与することについての特別な検討も必要になります。

したがって、合弁会社の設立の第一歩は、合弁会社に参加する予定の当事者がそれぞれどのような思惑や目的を持っているのかを検討するために情報を集めることです。各当事者の基本情報(事業内容、組織概要、役員構成等)を把握しあい、提携先としてふさわしいかどうか、合弁相手としてうまく付き合っていけるかどうかを調査し、共同事業実施の実現可能性を探ります。

なお、この段階においては、必ずしも合弁会社を設立することが唯一の選択肢というわけではなく、別の形態による提携の選択肢も視野に含めて考えていることが多いはずです。実際、種々の情報収集や調査を経て、合弁会社設立の方針を撤回し、それ以外の手法を採用することもあり得ます。

提携手法、合弁形態の検討

基本情報の調査を経て、具体的な提携の方法を検討することになります。様々な企業間の提携方法のうち、合弁会社の設立というのは、提携の密度、結合の度合いがかなり強い手法です。お互いが信用とノウハウを提供し合い、一つの事業体として事業展開することが最良の選択であると言えなければ、敢えて合弁会社という形態を採用する意味はありません。

例えば、相手方企業との間で単に業務提携契約を締結して協力関係を構築する場合と異なり、合弁会社を設立する場合は、相手方との関係性が悪化したり、採算性が想定を下回る結果になったとしても、当方の意向だけで容易に合弁を解消したり事業を撤退することはできません。そういったリスクがあることを踏まえて、なお合弁会社を立ち上げることによる有利点があるかどうかを冷静に見定める必要があります。なお、他の形態と比較した場合の合弁会社の特徴については、過去の記事(合弁契約における注意点総論)をご参照ください。

ところで、合弁会社として立ち上げる法人の形態については、様々な選択肢があり得ます。株式会社を設立することが原則的な形態ですが、それ以外にも、国内合弁であれば合同会社、LLP、任意組合等の仕組みを利用することもあり、さらに、国外合弁ではその国特有の形態を選択することもあり得ます。いかなる形態を選択するのかは、設立にかかる時間、費用、労力、事業を営む上での利便性、信用性、法律面での安全性、確実性、さらには税務面での特性といった諸事情を考慮して、総合的に判断することになります。

基本合意の形成と秘密保持契約の締結

以上のような検討を経て合弁会社を設立するという方向性が定まった場合でも、具体的な合弁の条件を確定するまでには、さらに時間をかけて細かい条件検討や交渉を行う必要があります。そこで、通常、合弁会社を設立するという基本方針が固まった時点で、合弁会社に参加する予定の当事者間で基本合意書を締結します。「これから合弁契約締結に向けてお互いに準備に入り、誠実に交渉します」という大枠について相互に確約するわけです。

この時点で既に具体的な合弁条件の一部が確定している場合には、その確定済みの内容を基本合意書に盛り込むこともあります。ただし、基本合意の段階では交渉が十分に成熟していないことが通常ですので、相互に基本合意に拘束されることを避けるために、法的拘束力の範囲を限定する手法を採ることが多いです。

また、合弁交渉の初期段階において、各当事者は、お互いに相手方に対して自社の営業・技術上の情報を開示し合い、今後の具体的な合弁契約の中身を検討するための材料とすることもあり得ます。このような場合、基本合意書とは別に秘密保持契約書を締結し、あるいは、基本合意書の中に詳細な秘密保持条項を設けることで、秘密情報の盗用・漏洩のリスクについて予防線を張っておくことが通常です。

特に交渉相手が同業者であり、自社にとって重要な秘密情報を開示する必要がある場合には、秘密情報の範囲、使用目的制限、開示制限、秘密保持措置、違約責任といった事項について厳格に定めておくことが望ましいでしょう。

デューディリジェンス(DD)の実施

デューディリジェンス(Due Diligence)というのは、企業、事業の収益性、リスク、法令適合性などを総合的かつ詳細に調査する手続きのことです。略して「デューデリ」「DD」などと呼ぶこともあります。合弁契約の内容が固まってきた段階で、当初段階の基本調査よりもさらに一歩進んで、企業提携の相手方としてふさわしい相手かどうか、提携によって予想外のリスクを背負うことにならないかということを調査・確認する必要が出てきます。そこで、会計面や税務面については公認会計士や税理士に、法務面については弁護士に依頼して、このデューディリジェンスを実施するのです。

もっとも、新しい事業を始めるためのパートナーとしてふさわしいかどうか、当該提携分野について問題がないかどうかについて確認がとれれば足りるので、事業そのものを売買するM&Aの場合などと異なり、簡易なデューディリジェンスで済ませることも少なくありません。最低限、合弁事業そのものが毀損されるような法的リスク、会計リスク、税務リスクがないかどうかの確認は必須でしょう。

合弁会社の基本的内容の決定

デューディリジェンスの後、あるいはこれと並行して、合弁会社における合弁当事者聞の役割分担、経営管理方法、権利義務等の詳細について相手方企業との間で意見交換をし、徐々に合弁会社の全容を形作っていきます。

最終的には合弁当事者間で合意した合弁会社に関する事項を合弁契約書という形で固定化しますので、交渉の段階においても「ゴール=合弁契約書」というイメージを持って、そこから逆算して交渉に臨むことをおすすめします。

合弁交渉にあたっては、会社の定款で定めるような細かい事項についても議論しなければなりませんが、「そもそも何のために合弁会社を作るのか」「何を実現したいのか」という大局的な視点を常に忘れないようにしてください。そして、判断に迷ったときには、必ずこのような原理原則に立ち戻って考える。これが、結果的に合弁交渉を思い通りに進めるための一つの黄金律と言えます。

合弁契約書の締結

合弁会社における合弁当事者聞の役割分担、経営管理方法、権利義務等の詳細についてさらに交渉を行い、正式な合弁契約書を締結します。合弁契約の内容及び注意点については、過去の記事(合弁契約における注意点総論)をご参照ください。

合弁契約の一般的な特徴に加えて、国際合弁契約の場合、少なくとも合弁会社の設立に関しては当該国の企業関係法制に従う必要があるという点が特徴的です。したがって、合弁契約の締結の前に、その国の企業関連法をリサーチして内容をよく把握しておく必要があります。

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