投稿一覧

企業活動における紛争対応その4 弁護士の活用方法

※ この記事は旧サイトで公開していたものを修正してリニューアル掲載しています。

「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」という弁護士法の条文があります(弁護士法1条1項)。崇高な理念であることはわかるものの、その具体的に意味するところはなかなかイメージがつかめません。そこで、改めて企業の紛争対応の場面における弁護士の役割とその活用方法について整理してみたいと思います。

企業の紛争対応の場面での弁護士の役割
紛争解決の役割

医師の仕事の根幹が医療であるように、弁護士の仕事の根幹は何と言っても紛争解決です。弁護士が紛争解決を全うできるのは、何も法律の知識があるからということだけではありません。法律の知識のみに着目すれば、「弁護士資格は持っていないが弁護士よりも特定分野の法律に詳しい」という人は沢山います。

弁護士を弁護士たらしめているものは、実は、個々の法律の条文に書いてある内容についての知識というよりも、法律の趣旨や仕組みに対する理解、現実の紛争の場面における交渉の技術、訴訟の経験といったものによって支えられている「法的なものの見方」です。その紛争に関してどのような法律が問題になるのか、その法律によればどのような解決を図ることができるのか、訴訟になった場合に想定される展開はどのようなものかということを分析し、そこから紛争解決に向けた方策を導き出します。

もちろん、極限的な場面を何度も自力で乗り越えてきた百戦錬磨の経営者で、弁護士に頼ることなく鮮やかに問題を解決してしまう方もいます。しかし、それは往々にして「その人」だからこそ成せる技という色彩が強いものであり、他の企業や紛争事例に応用できる一般性、再現性のあるノウハウとは言い難いのではないかと思います。

この点、弁護士の紛争解決対応は決して場当たり的なものではありません。一見、何ということはないと思えるような対応でも、弁護士はしっかりとした根拠に基いて対応をとっています。先述した「法的なものの見方」を根本に据えて、その時々で最善の選択を積み重ねていくことで、素人判断の積み重ねでは行き着くことのできない紛争の合理的解決という結果に到達するのです。

紛争予防の役割

筆者もよく経験することですが、経営者から相談を受けて「もっと早く相談してもらえれば…」と思うケースが非常に多くあります。

弁護士は、紛争解決という出口の部分がわかるからこそ、それを見越した上で、紛争予防という入口部分での問題に対処することができます。弁護士は紛争解決についてのプロフェッショナルであるのと同じように、あるいはそれ以上に、紛争予防についてのプロフェッショナルでもあるのです。この点、当の我々弁護士の中に、紛争予防に関する専門性の自覚を持たずに「紛争になってからが出番だ」とばかりに事後対応に専念している者がいるのは、非常に残念なことです。

紛争対策の最良の方法は、未然に紛争発生を防ぐこと、つまりは紛争予防です。事前のトラブル発生防止策をとっておけば、発生してしまったトラブルを解決するために事後策を講じる場合と比較して、圧倒的に少ない費用と労力で大きい成果をあげることができます。

特に、法務部や法務担当者が置かれていない中小企業は、ひとたび紛争が発生すれば経営者自身が対応に追われることとなり、とても経営に専念できる環境ではなくなってしまいますので、できるだけ紛争が現実化する前段階から予防策を講じておくことが非常に重要です。

紛争になってからその解決を考えるのではなく、紛争を防ぐにはどうすればよいかを考える。そのようなスタンスを、相談する企業の側と相談を受ける弁護士の側が共有することが、健全な企業活動を支える力を生み出します。

戦略法務の役割

弁護士の役割の3つ目に、企業活動における戦略立案に自らの法的知識やノウハウをもって参加する役割があります。企業戦略に法律的な観点から参加するということで、戦略法務などと言われており、筆者が特に注力している分野でもあります。

例えば、新規に始めようとしている事業について、弁護士として、どのようなリスクがあるか、理想とされるスキームはどのようなものか、自社の権利の保護のために行っておくべき措置は何か等を分析・助言して、事業が円滑に進んでいくようにするというような関与の仕方です。

この場合、弁護士は法律の専門家として会社の現状と課題を分析し、経営者が最適な方策を選択できるよう助言し、あるいは、状況に応じて必要な法的措置を講じます。これまで述べた紛争解決や紛争予防の場面よりも一歩進んで、より企業に近い立場、場合によっては企業の内部において、弁護士としての専門性を発揮することになります。

大企業では、弁護士を自社の従業員(インハウスローヤー)として雇い、弁護士の持っている能力や経験を会社経営に活かすことがすっかり定着しています。同じような発想で、中小企業においても、経営判断の場面において外部の弁護士の関与を積極的に取り入れることで、弁護士の知見を活用した経営戦略立案というものが可能になります。

弁護士への上手な相談の仕方、頼み方
気軽に、早目に相談すること

「大した相談ではなくて恐縮ですが…」という枕詞がついた相談をいただくことが多くあります。しかし、そのように相談を躊躇している場合に限って、相談者である企業自身が気づいていない大きな問題が潜んでいるということが良くあります。

実際、ほんの数分だけ話して解決してしまい、本当に大した問題ではなかったということもありますが、そのような相談は弁護士にとって少しも迷惑ではありません。ほんの少しの意見交換で悩みを解消することができれば、それこそ弁護士冥利に尽きます。また、日頃から相談事を通じて企業の実態を把握しておくことで、本当に大きな問題に直面した時に適切な対処ができるようになります。

「これは法的にどうなのだろう」と少しでも違和感を感じることがあれば、なるべく早期に弁護士に相談することをおすすめします。身近に相談できる弁護士がいる場合には、「ちょっとした疑問」、「たいしたことないこと」と思っていても、躊躇せずに質問して、疑問・不安をなくすようにしましょう。

経営理念や会社の状況を明確に伝えること

弁護士にとって、依頼者の属性や個性といったものは非常に重要な情報です。全く同じような事案であっても、当事者である会社の状況が異なれば、それに応じてとるべき対応も異なってきます。弁護士が依頼者である企業のことを十分に理解していなければ、ニーズに応じた的確な対応をとることはできません。

したがって、依頼する企業の側としては、日頃から弁護士とのコミュニケーションを図り、企業の経営理念や最新の実情等をわかってもらうよう努めてください。時々「顧問弁護士がいるけれど相談しにくい」という企業の声を聞くことがありますが、もしそのような事情があるのであれば、残念ながらその弁護士は企業にとって相応しい人だとは言えないでしょう。

意思決定は自分たちが行うと意識すること

「未知の場面に遭遇して対処方法が全くわからない」
「会社としてどのように判断すべきか迷っている」

このような状況におかれた場合、企業としては自社の実情を良く知ってくれている弁護士に対しては、相談だけでなく意思決定まで委ねたくなるかもしれません。しかし、弁護士は適切な対処方法、解決の糸口、あるいは判断の基準と言ったものを提供できるだけで、自分自身で意思決定を行うことはできません。

企業としての方向性を決める意思決定をするのは、あくまでも企業自身です。弁護士は経営責任を負っていないからこそ、客観的な視点から冷静に状況を分析してサポートに徹することができます。このような役割分担が根本にあるからこそ、お互いが協力することで大きな力を生むことができるのです。

情報を具体的かつ正確に伝えること

弁護士に相談するにあたっては、情報を具体的に、かつ、正確に伝えることが重要です。相談する側の企業としてそれほど重要でないと思っている情報が、実は、決定的に重要な情報であったということがあります。また、相談者・担当者の考えや印象が、実は、他の事情を兼ね合わせて考えてみると全くの的外れであったということもあります。自分の判断で情報を選別したり、不正確な情報を伝えたりすると、間違った結論を導いてしまう危険があります。

いかに有能な弁護士であっても、前提となる情報が誤っていたり不足したりしていては、適切な対処をすることはできません。自分勝手な色眼鏡で都合よく事実を解釈するようなことはせず、虚心坦懐にありのままを弁護士に伝えるようにしてください。

【関連記事】
企業活動における紛争対応その1 紛争予防の重要性
企業活動における紛争対応その2 クレームの対応方法
企業活動における紛争対応その3 紛争の解決方法
企業活動における紛争対応その4 弁護士の活用方法

PAGE TOP