投稿一覧

企業活動における紛争対応その2 クレームの対応方法

※ この記事は旧サイトで公開していたものを修正してリニューアル掲載しています。

紛争予防と紛争解決の狭間にあるのが、クレームに対してどのように対処するかという問題です。近時、消費者意識の高まり、コンプライアンス経営(を前提とする企業の責任追及)の普遍化、ソーシャルメディアの普及などにより、社会のいろいろな場にクレーマーが登場してきています。企業がうまくクレームに対応するためには、どのようにすればよいでしょうか。

クレーム対応の際に知っておくべきこと

クレーム対応を考える前提として、そもそも企業として対応方法を考えなければならないクレームとはどのようなものを指すでしょうか。クレームとは、「企業の提供する製品やサービスに関する、顧客や消費者による苦情、抗議などの申入れであり、何らかの要求を伴うもの」を言います。

この定義から明らかなとおり、例えば「何年も前からこの製品を愛用しているが、最近は品質が落ちたように感じる」という意見は、「要求」を伴わない点でクレームとは一線を画すものであり、必ずしも当該意見の主に対して回答をすることが要求されているわけではありません。これに対して、クレームには必ず何らかの「要求」が含まれていますので、企業としては、この要求への対応を検討した上で、クレーム主に対して回答することが必要となります。

さらにクレームを分析して見ると、要求内容と要求方法の二つの面で正当なもの、不当なものと分けることができます。要求内容も要求方法も正当なものは、言わば道理がある正当なクレームであり、それ以外の、要求内容と要求方法のいずれかが不当なものは、不当なクレームと言えます(要求内容が正当でも不当な方法で要求するのであれば、それはやはり不当なクレームです)。

不当なクレームは企業に対する危害となり得るものですが、残念ながら不当なクレームを撲滅することは不可能ですので、不当なクレームを受ける可能性があることを受け入れるところから出発する必要があります。言い換えると、企業がクレーム対応を考えるにあたっては、「リスクを無くす」すのではなく、「リスクをコントロールする」という視点を持つ必要があります。

クレーム対応の手順

リスクをコントロールするクレーム対応は、①聴取、②調査、③判定、④回答という4つの段階から成ります。それぞれのプロセスについてよく理解した上で、実際の対応にあたっては、今どの段階にあるのかということを意識することが重要です。

聴取:相手の言い分をよく聞く

まず相手の言っていることに耳を傾けて、相手の言い分(要求原因である事実関係と要求内容)をよく聞き取ることが出発点です。「耳を傾ける」と言っても、相手の言い分に同調するという意味ではなく、相手の人物像(氏名、住所)、事実関係、要求の具体的な内容(例:金銭の要求、製品の交換、謝罪・事実の公表など)を虚心坦懐に聞き取るということです。

この段階では、要求に対する回答をする必要はありません。仮に「どうしてくれるんだ」などと言われても、「社内調査のために一度預かる」と伝えるにとどめるようにします。相手方が謝罪を求めているようであれば、口頭で謝罪をすることは良いですが、謝罪の対象は「お気持ちを害した点」に限定するようにします。その他、クレーム主の常套文句に対する対応例として以下のようなものがあります。

%e3%82%af%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%a0002

調査:クレームに関連する事実を調査する

相手の言い分がわかったら、次に取り組むべきは、クレームに関連する事実についての調査です。クレーム内容に関する事実はもちろん、クレーム主の素性や、他社の対応事例など、あらゆる関連事実を調査します。もし社内で紛争予防のために「記録を残す」ということを徹底している場合には、ここでその記録が強力な証拠として生きてくることになります。

記録が残されていない場合には、関係当事者や関係資料から事実関係を類推していきます。精度を少しでも高めるためには、関連する書面、メール、関係者の証言など可能なかぎりの資料を集めることが必要です。集めた資料は物理的に一箇所に集約して散逸を防ぐとともに、いつでも参照したり追加したりできるようにしておきます。

判定:対応策を決定する

調査結果が出たら、それを相手の主張と照らし合わせて自社の責任の有無を判定します。この際、自社に法的な責任がある場合には、クレーム主に対する謝罪とクレーム主の要求のいずれに対しても応じることを基本線として考えることになります。一方、法的な責任があるとは言えない場合は、クレーム主に対する謝罪については応じる余地はあるものの、要求に対する応答については応じる必要はありません。

具体的な判断内容とそれに応じた企業としての対応は以下のとおりです。法的責任の有無などの判断が要求されますが、ほとんどの場合、常識に基づいて判断できるものです。

%e3%82%af%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%a0003_2

例えば、食品に異物が混入していたというクレームの場合、異物が混入していた事実が確認でき、かつ、工場内の設備に問題があったことが判明したというケースであれば、企業の側に法的責任があることは明らかですので、当該クレームは正当なものであると受け止めて謝罪と要求に応じるというのが原則的な対応方法となります。

回答:クレーム主と交渉して解決を図る

最終段階として、判定結果を相手方に回答し、自社の責任の有無、性質、程度に応じた解決策を提供して解決を図ります。回答は書面で行うことを原則としつつ、事案の内容や相手方の属性に応じて電話やメールでの回答を柔軟に検討します。交渉の経緯は、回答方法を問わず全て記録化してください。

企業としてのクレーム対応はここがゴールです。上記Aの対応(謝罪にも要求にも応じる)以外、相手方が納得することはなく要求が繰り返される可能性がありますが、その場合でも、企業としては同じ回答を繰り返して伝え、納得してもらうよう粘り強く交渉するしかありません。交渉は平行線をたどることになりますが、現実的にはそれが正しい対応ということになります。

訴訟を起こすと言われても恐れる必要はありません。訴訟は透明性、公平性がある紛争解決手続ですので、これまでのプロセスが間違っていない限り同様の結論に落ち着く可能性が高いはずです。

%e3%82%af%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%a0004

業務妨害への対応

上記のような対応手順に従って対応しても解決に至らず、相手が執拗な架電やインターネットでの誹謗中傷など自社では対応しかねる事態に至った場合には、既に企業としての責任は果たしたと考えて、弁護士に法的な対応を相談してください。

依頼を受けた弁護士は、クレーム主に受任通知を送って警告を発し、それでも止まない場合は法的手続の着手を検討します。民事手続では各種仮処分の申立て、調停の申立て、債務不存在確認請求訴訟の提起など、刑事手続では脅迫罪、業務妨害罪、名誉毀損での告訴等が考えられますので、事例と状況に応じて相応しい手続を選択します。

【関連記事】
企業活動における紛争対応その1 紛争予防の重要性
企業活動における紛争対応その2 クレームの対応方法
企業活動における紛争対応その3 紛争の解決方法
企業活動における紛争対応その4 弁護士の活用方法

PAGE TOP