• 「訪日客に街の魅力を伝えたい!」
    株式会社イールー
    代表取締役 伊藤薫氏

    弁護士山口智寛が時代をリードするリーダーたちに突撃インタビューを敢行するシリーズ。今回は、東京の深川地域をベースにして海外からの訪日客に地域密着型の体験ツアーを企画運営している株式会社イールーの代表・伊藤薫氏にインタビューに応じていただきました。

    【株式会社イールー概要】(2018年9月現在)

    所 在:東京都江東区扇橋3-23-2
    設 立:2016年5月
    事業内容:地域密着型の体験プログラム、イベント企画事業
    Webサイト:https://www.trecktreck.com/company/

    地域密着型の体験ツアー「Treck Treck」を中心に、世界と地域をつなぐ「小さな旅」をコーディネートしている。様々な可能性を持った旅人と地元の人がつながることで、互いの暮らしを豊かで充実したものにするための気付きを得ること、地域や企業にとって持続可能な取り組みをつくることを目的とする。

    社名のイールー(YILU)は、中国のことわざ「よい旅の途上を(一路)」と台湾の古い唄「一本の草木にも一粒の露(一露)」から名付け、「旅を通じてもっと人生を豊かに」という想いを込めたもの。

    【伊藤薫プロフィール】

    早稲田大学教育学部社会科学科卒業後、株式会社リクルートに入社し、新規事業開発等を担当。その後、上海ホットペッパー有限公司(中国法人)、株式会社ロフトワークでの勤務を経て、2016年5月に株式会社イールーを立ち上げる。

    訪日観光客と巡る深川

    山口:イールーのメイン事業であるトレックトレック(Treck Treck)は、どんな活動をしているのですか。

    トレックトレックでは、深川地区(東京都江東区)を拠点にして訪日観光客向けの体験型ツアーを提供しています。3つのコンセプトで構成していて、1つ目が” showcase” つまり、その地域の人、文化、歴史、ライフスタイル、ビジネスといったものを紹介しています。2つ目が“experience”で、文化や歴史を感じることができる場所を巡ったり、ユニークな取組みをしている人に実際に会いに行ったりします。3つ目が ”get inspired” で、参加者の方たちに心に残る経験をしてもらい、それを未来に活かしたり次の行動に移してもらおうということです。

    山口:なぜ深川を拠点にしているのでしょうか。

    深川を拠点に選んだのは、私が実際にここに住んでいて、その魅力に魅せられたことがきっかけです。深川は、もう400年くらい前、江戸時代のころに埋立てや干拓によって居住地域となったことから歴史が始まりました。新しくできたこの地域に、全国各地から武士、商人、職人、さらには歌人、芸者、役者、相撲取りなど様々な人が集まってきました。多種多様な人たちが混ざり合うことで新しい文化や雰囲気が生み出されてきたエリアなんです。最近、コーヒーやアートの街として着目されるようになったのも、新しいものを受け入れたり生み出したりする土壌があったことが大きいと思います。こういう魅力を海外から来るお客さんたちに知ってもらいたくて、深川を拠点に活動を始めました。

    街を知るツールとしての自転車とカヤック

    山口:移動手段として自転車やカヤックを利用するところも非常にユニークですね。どういう経緯で導入したのですか。

    起業前にアメリカのデトロイトに視察に行った際に、自転車が通勤や日常生活のツールとして非常に普及しているのを見て、トレックトレックで自転車を使うことを思いつきました。深川エリアは関東大震災以降の街づくりで道幅が広く、建物もあまり密集していないので、エリア内を巡るときは徒歩だとちょっとキツくて自転車がちょうど良い。しかも、台湾でオリジナル自転車を製造して深川にショールームを設置して販売しているアロハロコという地元ブランドもあるんです。アロハロコさんに自転車をお借りできないかと相談したところ、快く提携を引き受けてくださり、導入に至りました。

    また、深川エリアは道路と同じくらい水路が発達していて、これも江戸時代からの名残ですが、いたるところに水路が張り巡らされています。その水路で自転車に乗るように気ままにカヤックを漕いでいる人もたくさん見かけます。実際、カヤックは、自転車と同じで、特に免許とか資格とかが無くても誰でも自由に乗れるもので、操作もそれほど難しくありません。そこで、陸上が自転車なら水上はカヤックということで、導入しました。

    海外の反応、地元の反応

    山口:参加する訪日客はどんな属性の方が多いですか。

    国は様々ですが、いわゆる観光名所ではなく、その街の歴史や文化や人に関心を持っているタイプの方たち、職業で言うと、広告、金融、ITなどの大手企業のマネージメント層。あとは、エンジニア、デザイナー、医者などの専門職の方が多いです。面白いことに、最初から旅行目的で来日される方と同じくらい、仕事で日本に来て空いた時間に参加してくださる方も多いです。こういった属性の方たちは、周囲への拡散力が大きいのと、リピート率が高いのが特徴です。国をまたいで口コミが広がっていき、そこからリピーターが生まれるという現象が起きています。

    東京の最先端のビジネス街のすぐ近くに、観光地化されていない街があり、そこでありのままの「日本」や「日本人の生活」がある。歴史や文化や人を身近に感じることができる。そういった点に大変関心を持って参加していただいています。実際、観光地だと半日とか1日で有名なところをまわって終わりですが、トレックトレックの参加客たちは街そのものを気に入ってくれますので、「次に来るときは是非長期滞在したい」という意見もよく聞きます。

    山口:受け入れる側の地元の方たちはどういう反応ですか。

    最初に挨拶回りをした時は、消極的な反応の方が多かったです。「外国の人に来てもらっても言葉が通じなければ意味がない」とか「マナー違反をされては困る」とか。それで、お店の方たちの意見を細かく聞いて、注意事項を英語で書いて店舗内に貼ってもらったり、実際にお客さんを連れてお店を訪問する際に逐一説明するようにしたりしました。

    そういう地道な配慮をしながらツアーを継続しているうちに、「ちゃんと伝えたら分かってくれる」「日本人よりも文化的に成熟している」と、徐々に好意的な意見をいただけるようになってきました。それだけでなく、「挨拶くらいできるようになりたい」「英会話を習い始めた」という風に、積極的にコミュニケーションを取るための努力をしていただけるようになりました。

    今は、例えば、自転車で工場の前を通りかかると「うちにも寄っていいよ」と声を掛けてくださったり、本当に地元の方たちから“welcome!”という気持ちで迎えていただいています。そういう状況に触れた参加客の方たちは、街全体から歓迎されていることにすごく感動してくれて、一層この街のことが好きなる。とても良い循環が生まれていると思います。

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