• 労働時間とは何か その2:出張中の移動時間について時間外手当は発生するか

    前回に引き続いて労働時間についてです。今回は、出張中の移動時間について時間外手当は発生するかという問題について考えてみたいと思います。これは、言いかれば、「遠方への出張のための移動時間が労働時間にあたるか」という労働時間該当性についての問題です。

    遠方への出張の場合、休日に移動して、翌日からの仕事に備える場合があるかもしれません。その場合、出張のための移動時間について、労働時間にあたり、賃金が発生するのでしょうか。出張のための移動時間は、仕事のための準備時間として労働時間にあたる気もしますし、実際に仕事をしているわけではないので労働時間にあたらない気もします。

    1 裁判例に見られる傾向

    この点について争われた裁判例として、東京地裁平成6年9月27日判決があります。

    事案の概要は次のとおりです。X(原告:従業員)がY(被告:会社)の業務命令により、韓国に出張しました。Xは、日本から韓国に移動したのち、韓国においても、浦項から光陽、順天、ソウル、浦項に移動し、合計15時間移動に時間を費やしました。帰国後、Xが、Yに対して、移動時間を労働時間として時間外勤務手当の申請をしたところ、Yは移動時間合計15時間を時間外勤務手当の対象となる労働時間にあたらないとしました。Xがこれを不服として、出張のための移動時間も労働時間にあたるとして、未払時間外勤務手当の支払いなどを求めて訴訟を提起しました。

    東京地方裁判所の判決は、移動時間が労働時間にあたるとしたYの対応は相当であると判断しました。その理由として、移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実労働時間にあたると解するのは困難であること、Xの出張当時、一旅行当たり2000円の海外出張手当が支給されていることなどに言及しています。

    この裁判例をはじめ、公表されている裁判例の多くは、移動時間は労働時間に該当しないと判断しています。やはり、移動時間中は従業員の自由な行動が許されているため、移動時間は労働時間にはあたらないと考えるのが一般的であると言えそうです。もっとも、上記の東京地裁の裁判例では、出張手当が支給されていたことも考慮されていますから、もし出張手当が支給されていなかったら、異なる判断内容となっていたかもしれません。

    なお、かなり古い通達ではありますが、出張中の休日はその日に旅行(移動)するなどの場合であっても、旅行(移動)中における物品の監視等別段の支持がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えないとした通達があります(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)。この通達は現在に至るまで撤回や修正等はなされておらず、一応、現在でも行政解釈として通用しているものと考えるべきでしょう。

    2 新しい裁判例

    これに対し、最近出された労働時間についての興味深い裁判例として、京都地方裁判所平成29年4月27日判決をご紹介します。この事案は、X1~4(原告:従業員)が、 Y(被告:会社)に対し、時間外手当の支払を求めて訴訟を提起したというものです。京都地方裁判所の判決は、X1及びX2が労働時間として主張した時間のうち、出張のための移動のみが行われた日について、「遠方での業務のために長時間をかけて移動した日と認められるのであり、フェリーの乗船中などの自由行動が可能な時間以外については、労働時間と認めるのが相当である」「遠方への出張のための通常と異なる移動時間であることが明らかであり、その移動時間に対応する時間を労働時間と認めるのが相当である。」と判断しました。

    この裁判例によれば、遠方への出張のための「通常と異なる移動時間」については、労働時間と判断される可能性があることになります。ただ、判決理由においては何が「通常と異なる移動時間」に該当するのかまでは具体的に述べられていませんので、この点については、今後、「通常と異なる移動時間」であることを理由に労働時間であると認定する裁判例の登場を待つ必要があります。

    3 まとめと若干の私見

    以上、裁判例の傾向を総じて言えば、一般に出張のための移動時間を労働時間と捉えることは困難であるものの、遠方への出張等で通常とは異なる移動時間が発生し、従業員の自由行動が制約された場合や、会社が出張手当を支給しない場合には、労働時間に該当する余地があるということになります。

    しかしながら、一般的な感覚に基いて言えば、出張のための移動時間中は、従業員は一応自由行動が許されるとはいえ、例えば、会社から急遽「商談が中止になったので戻ってこい」と言われれば出張を取りやめて帰社しなければならないのですから、会社の指揮命令から完全に開放されているとは言い難いと言うべきでしょう。したがって、会社としては、出張のための移動時間を労働時間として取り扱わないのだとしても、従業員に対して出張手当等の金銭的給付を支給することが必要と考えておくべきだと思います。

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