• 「伝統を守るために挑戦し続けます」(後編)
    司牡丹酒造株式会社
    代表取締役 竹村昭彦氏

    「10年後の司牡丹を考える会」から生まれたミッション

    山口:司牡丹では自らのミッションとして、「『土佐』『本物』『エコロジー』にこだわった美味しい日本酒を製造販売し、人々にワクワクするような日本酒の愉しさを伝道する。その結果、個人には元気と健康と幸せを、社会には潤滑で円満な人間関係をもたらし、世の中に進歩と調和をもたらす。」ということを謳っています。このミッションはどのようにして作ったのですか。

    私は、元々、全部自分一人でやってしまいたいタイプで、部下にやらせるのはあまり得意ではありません。しかも、現実的な事を言えば、社員のモチベーションを上げるための一番の方法は、やはり売上拡大、つまり、私が営業本部長的な立場でどんどん営業をして売上を大きくすることです。しかし、これでは組織も人も成長は望めません。どうやったら上手く会社をマネジメントできるんだろうと考えて、やはり会社全体で共有する信念や理念といったものが必要だと思いました。そこで、社内の各部署から人を集めてきて「10年後の司牡丹を考える会」というのを作って、そこで社員から出てきた声を吸い上げてミッション策定に取組みました。

    この「10年後の司牡丹を考える会」では、最初は、とにかく社員にわくわくするようなことをイメージしてもらい、それを文字や絵で表現してみるということをやりました。例えば、ビル・ゲイツがジェット機に乗って司牡丹を買いに来るとか、任天堂が司牡丹と協力して日本酒のコンピューターゲームを発売して大ヒットするとか、ある種、突拍子もないことです。でも、それで良いんですよ。本来、10年後のことなんて、社長の頭のなかにしかないことです。社員の立場で予想できるのは、せいぜい来年くらいまでのことで、それ以上先のことを考えている社員がいたら逆に怖い(笑)。だからこそ、社員には敢えて10年後を考えるということに挑戦してもらい、それを会社全体で共有できる形に整えて行きました。

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    日本酒戦国時代における事業戦略

    山口:何年か前に地酒ブーム、日本酒ブームということが話題になりました。業界全体として見た場合、各酒蔵が造っている日本酒の品質は上昇しているのでしょうか。

    日本酒の品質は年々レベルアップしていて、平均値で言えば、日本酒の数千年の歴史の中で常に今現在が一番美味しい酒を飲むことができると言って良いと思います。業界全体がレベルアップしている以上、昔からある酒蔵としては、ただ伝統を守ることに固執し技術や品質の向上の努力を怠っていれば、相対的な順位は下がっていくでしょう。これは、前回お話しした、伝統は守ろうとしていては守りきれないという話に通じることです。

    日本酒がレベルアップしている理由は、一言で言うと、技術革新、意地、競争といったところです。日本酒ブームの最初のきっかけになったのは、ある酒蔵が、吟醸(※1)の酵母を使って本醸造(※2)で仕込んだ酒でした。それを搾ってすぐに瓶詰めして、1回のみの火入れ(※3)でマイナス5度の冷蔵庫に瓶貯蔵するというものでした。本醸造の酒で、1升瓶が2000円を切るくらいの安さで買えるのに、飲んだら「大吟醸?」と思うような香りがして、皆、衝撃を受けました。その後も、意欲的、革新的な蔵が続々と出てきて、安くて美味い酒をどんどん市場に供給していった。無名の蔵が美味いと評判の酒を出して一躍有名になるということが続き、日本酒ブームに発展していきました。

    ※1 吟醸(酒):40%以上磨いた(精米歩合60%以下の)白米を原料に用い、低温下で長時間発酵させたもの。果物のような華やかな香りがするのが特徴。
    ※2 本醸造(酒):30%以上磨いた(精米歩合70%以下の)白米を原料に用い、白米の総重量の10%未満の醸造アルコールを添加したもの。
    ※3 火入れ:搾った後の酒を加熱処理すること。

    焦ったのは、私たちのような古くから人気のあった蔵です。あぐらをかいていたわけではないですが、若い消費者層からの支持という点では、あっという間に追い抜かれて、逆に彼らに追い付くための努力をしなければいけなくなった。誰だって楽して稼ぎたいですから、本当は毎年品質を上げるなんてキツいことやりたくないですよ(笑)。だけど、努力を怠ったらあっという間に時代遅れになって取り残されますから、必死に努力を続けています。そうやって競争が激化することで、全体の技術水準も上がっていきました。

    山口:海外市場はまだまだ開拓の余地があるのでしょうか。

    司牡丹としては、かなり以前、30年以上前から海外販路の開拓に努めてきました。日本酒というものを知ってもらって市場を創出するという部分での努力から始めたので、多大な労力と時間をかけて、それでいて利益が出ないということが続いていました。ようやく日本酒が認知されるようになり、ここ5~6年くらいでやっと海外市場でも利益が出るようになってきました。

    日本酒の輸出量は一貫して右肩上がりで拡大していますし、今後も市場としては十分拡大が見込めると思います。現時点で市場規模として一番大きいのはアメリカですが、成長率で言えばアジア、特に中国、香港、韓国、台湾、シンガポールといった国には非常に勢いがありますね。

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