• 労働時間とは何か その1:労働時間該当性の判断基準

    近時、社会構造や人々の意識の変化に伴って「労働時間はどうあるべきか」という議論が盛んになされています。このような議論においては、主に社会的な側面から「人々の人生において労働時間とはどのような時間であるのか(あるべきか)」ということが検討されますが、同時に、法律的な側面から「法的に見て労働時間とはどのような時間であるのか」ということも検討しなければ、合理的な法制度の構築は実現できません。そこで、今回から2回に渡り、労働時間とは何かという点について見ていきたいと思います。

    会社が労働時間を理解することの重要性

    さて、「労働時間とは何か?」と聞かれたら、御社は正しく答えることができるでしょうか。従業員がある行為を行った場合、その時間が労働時間に該当するかどうかはどのように判別すれば良いのでしょうか。この問いに対する答えについて説明する前に、そもそも会社が労働時間について理解することがなぜ重要なのかを整理しておきましょう。

    1 賃金の算出

    パートタイマーをイメージすればよくわかると思いますが、従業員がある行為を行った時間が労働時間にあたれば、使用者(会社)はその労働時間中の労働に対する報奨として賃金を支払わなくてはなりません。また、従業員が深夜や休日にある行為を行った時間が労働時間にあたれば、使用者は従業員に対して深夜労働・休日労働分の割増賃金を支払わなければなりません。

    このように、労働時間に該当するかどうかは、従業員に支払う賃金額に直結する問題と言えます。

    2 法定労働時間の遵守

    労働基準法上、使用者は、休憩時間を除いて、従業員に1週40時間及び1日8時間を超えて労働させてはならないというルールがあります(労働基準法32条1項、2項)。この1週40時間、1日8時間を「法定労働時間」といいます。

    労働時間を超えて労働者を働かせる場合には、労働基準法の定める要件を満たす必要があり、要件を満たさずに法定時間を超えて働かせると、使用者は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法119条1号)。また、「違法残業を強いるブラック企業」というそしりを受けて、社会から糾弾されることもなりかねません。

    労働時間の管理は、会社のコンプライアンス上の最も重要なテーマであると言っても過言ではありません。

    労働時間に該当するかどうかの基準

    労働時間とは何であるかの理解が非常に重要であるということがおわかりいただけたかと思います。それでは、労働時間とはどのような時間を指すのでしょうか。労働時間に該当するかどうかはどのような基準で判別すれば良いのでしょうか。

    実は、労働基準法には「労働時間」の定義はありません。しかし、最高裁判所の裁判例(最判平成12年3月9日)においては「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」が労働基準法上の労働時間にあたるとされており、実務上もこの考え方が定着しています。

    問題はこの「指揮命令下に置かれている」か否かです。この点については、現実に問題となりうる全ての場面に適用できる画一的、一義的な判断基準を設けることは不可能ですので、会社による強制や義務付けがあるか、会社の業務と関連するものか、時間・場所が拘束されたものか等の様々な要素から、ケースバイケースで判断せざるを得ません。

    したがって、労働契約などに就業時間の定めがあったとしても、そのことのみから形式的に労働時間に該当するかどうかが決まるということはありません。例え形式的には就業時間外であっても、実質的に見て従業員が使用者の指揮命令下に置かれていると言える場合には、やはり労働時間であり、したがって割増賃金や法定労働時間の規定の適用対象となります。

    労働時間に該当するかどうかの具体的検討

    1 通勤時間

    従業員が自宅から勤務先に向かうための通勤時間は、労働時間にあたるのでしょうか。

    確かに、通勤時間は会社で業務に従事するために不可欠な時間ではありますが、従業員は通勤時間中は、新聞や本を読んだり、携帯電話でプライベートなメールのやり取りをしたり、自由な行動をとってよく、使用者の指揮命令下に置かれているわけではありません。したがって、通勤時間は労働時間にはあたらないと考えられています。

    これは、直行(=自宅から会社以外の仕事場に直接行くこと)や直帰(=会社以外の仕事場から自宅へ直接帰ること)の場合も同様です。

    もっとも、通勤途中で上司と合流し、業務の説明を受けながら移動する場合など、使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる場合には、労働時間にあたる場合があります。

    2 休日の研修

    会社が社員に対して休日の研修を受けることを要請する場合があります。こうした休日の研修を受ける時間は労働時間にあたるのでしょうか。

    この場合もやはり、労働時間にあたるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているかという観点から判断されます。会社が従業員に対して当該研修への参加を強制しているのであれば、従業員は研修時間中は会社の指揮命令下に置かれているといえますから、労働時間にあたるでしょう。一方、研修が希望者のみ任意参加すれば良いものである場合には、参加した従業員は会社の指揮命令下に置かれているわけではないので、労働時間にはあたりません。

    もっとも、労働時間にあたるか否かは実質的な判断ですから、表面上は任意参加とされていても、参加しないと欠勤扱いになる場合や、賞与や昇給の査定で不利益を受ける場合などは、実質的には参加が強制されているものとして、労働時間にあたる可能性が高いです。

    3 自宅に持ち帰った仕事について

    従業員が自宅に仕事を持ち帰って仕事をした場合、その自宅での仕事時間は労働時間にあたるでしょうか。

    通常、自宅に持ち帰った仕事は、自分の好きな時間に、自分の好きなペースで、自分の好きなスタイルで行うことができます。したがって、使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できず、一般的には労働時間にはあたらないと言うべきでしょう。

    もっとも、例えば上司から「月曜朝一の会議で使うから仕上げておいて」という指示があった場合等、使用者からの指示が暗に「自宅で仕事をせよ」と命じる趣旨のものである場合には、従業員は会社の指揮命令によって自宅で仕事をすることになるので、自宅での仕事時間も労働時間にあたる可能性が高くなります。また、従業員による対応が予定されている業務の量が、客観的に見て勤務時間内に終わらせることができないほど過大であり、自宅で仕事をすることが会社による黙示の業務命令と言えることから、自宅での仕事時間も労働時間にあたるとした裁判例もあります(大阪地判平成11年5月31日)。

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