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    特別インタビュー「実践する”カッコいいお金の使い方”」(前編)
    株式会社さわかみホールディングス
    代表取締役 澤上篤人氏

    情報の集め方と使い方

    山口:長期投資において投資対象を選定するに当たっては、日頃、対象を観察して情報収集をされていますよね。この点、一般の人が目にするニュース、新聞、インターネットなどの情報ではなく、どこからか特別の裏情報を入手するということはないのでしょうか。

    それは、完全なる思い違い(笑)。別に、特殊な情報を仕入れているわけじゃない。だけど、観察の姿勢が全然違う。さっきも言ったけど、まず、世の中を観察する。こういう世の中を作っていったらいいんじゃないかとか、こんな社会を子どもに残してあげたいよねとか、そういう目線で観察する。そうすると、良い方向に向かって頑張っている企業が浮かび上がってくる。

    主婦の皆さんだって、最新の情報を持っているんだよ。何故かって、経済というのは、人々の生活が集まって成り立っている。日用品とか雑貨とか毎日いろいろ買ったりするでしょう。その時に、この会社良いなと思っていたけれど最近ちょっと製品がおかしくなってきたとか、他の会社も追いついてきたとか考えて、買うものを選ぶ。そういう判断の行動が集まって、1年とか1年半後の企業の業績になる。つまり、自分自身も含めて、生活者がどういう行動をするかということが最先端の情報なわけ。

    確かに、トランプ政権や国の政策がどうだというニュースも、一つの情報ではある。だけど、そういう風に人から与えられた情報というものは、長期投資ではほとんど役に立たない。だって、そんなのは既に誰かが知っていて、もう沢山の人がそれに基づいて動いているはず。株価とかにも反映されているんだもん。

    そうではなくて、自分で考えて、独自の判断をして動く。独自の判断で企業の株を安い時に買っておく。みんなが気付いた時には株価が上っていて、リターンを得られる。これが本当の投資のあり方。ニュースを基に世の中の機関投資家がぎゃあぎゃあ騒いでるのなんて、横目で眺めて反面教師にしておけばいい。

    山口:そういう観察、情報を踏まえて、最終的に実際に投資対象とする企業を選定する際には、どういった基準で判断するのでしょうか。

    やっぱり弁護士は固いよね、基準とか言ってちゃ駄目だ(笑)。基準なんかじゃなくて、その会社に対して持つイメージが大事なの。5年先、10年先もこの会社に頑張ってほしい、もっと世の中のために働いてほしい、応援したいと思える企業を選ぶ。そういう企業と腰を据えてお付き合いしてくのが長期投資だ。だから、社会を良い方向に引っ張っていく可能性のある企業に投資する。われわれ長期投資家は、その企業が良い世の中を作っていくパートナーとなるかどうかを見てる。

    儲かりそうだからこの会社の株を買うとか、そういう卑しいことは本物の投資とは言えないよ。儲かる、儲からないだけを見ていたら、目先の利益を追い求めるだけで終わりでしょう。

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    仕事についての考え方

    山口:少し視点を変えて、仕事というものが日々の生活における収入の手段である以上、その先にあるお金の使い方とか生き方を考える以前に、仕事についてどのように向き合えばいいのかということを悩む人もいます。この点、どうお考えですか。

    生活を支えるためだけに働くのは、つまらないと思う。もちろん、仕事は生活の糧を得るための手段ではあるけれども、どんな仕事でも、やっぱり何らかの形で世の中のためになっているはずだ。だからこそ給料がもらえるわけでしょう。世の中のためになっているという意識をもっと持ってもらいたい。自分という人間は世の中に生かされていて、世の中のためにお手伝いしているのだという感覚。働くことが世の中のためになっている、みんなの幸せのためにちょっとでも貢献できている。そう思ったら働き甲斐も出てくるでしょう。

    最初の方で言ったノブレス・オブリージュっていうのは、そういうところから出てくる。自信を持って世の中のために仕事をする、世の中のために格好よくお金を使う、こういうのが格好いい人生なんじゃないか。

    こういうことは意識しないとできないよ。ぼやっとして格好良く生きるなんてあり得ない。毎日の生活、行動の中において、いかに美しく、いかに楽しく、いかに格好良くするか。これを常に意識していたら、仕事への向き合い方も変わってくるよ。

    山口:さわかみ投信の職場精神には「時の審判に耐えられる仕事」という言葉もありますね。これは、どういう意味ですか。

    今日はホワイトボードにずっと時間軸の矢印を書いているでしょう。中身が伴っていないのに建前だけ取り繕ったりしても、長い時間がたつと必ずボロが出るのよ。時間の経過の中で、伸びるものは必ず伸びる、駄目なものは必ず駄目になる。これを時の審判と言っている。こういうことを意識して、長い目で見て誇りを持つことができるような「時の審判に耐えられる仕事」をしようぜということね。

    山口:今日は、これから社会に出ようとしている学生も来てくれています。就職活動について何かアドバイスできることはありますか。

    経済の発展段階では、企業が主役だった。大企業、中企業、小企業、町工場、どこでも要領よく出世することが重要だった。暗記が得意で、受験戦争を勝ち抜いていい大学行って、いい会社入って、ゴマをすって役員まで出世したとか、そういう話があった。ところが経済が成熟すると、伸びる会社もあれば、駄目になる会社もいっぱいある。不祥事を起こして生活者にそっぽ向かれたら、一発で会社は潰れる。そう、成熟経済では企業ではなく生活者が主役だ。

    われわれは、買うのも買わないのも自由だ。そうすると、どういう基準で選択するのかというと、やっぱり社会正義だとか道徳というものが重要になってくる。昔はそんなこと言ってたら「生っちょろい」とか言われたけど、今は全然違う。そういう観点で会社を見てみると良いと思うよ。

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    「お先にごめんね」に託したメッセージ

    山口:最後に、個人的にどうしてもお聞きしたかった質問です。以前、私が澤上会長の著書にサインをお願いしたところ、澤上会長は「お先にごめんね」と書かれました(2012年10月24日と日付の入ったサイン本を示す)。意味深な言葉だなあと思いつつ、その表すところを十分理解できずにいました。今、改めてお聞きしますが、これはどういう意味なのでしょうか。

    これもさっきの時間軸の話と同じ。どんどん時間が経過する中で、過去を振り返ってばかりいても、今にこだわっていても、明るい将来には繋がらないし、投資の世界では全く通用しない。そういう人は、ある程度時間が経つと「しまった、あの時こうしておくべきだった」とか言って、また過去を振り返る。悪循環だ。

    そうではなくて、未来を見据えて今の行動に移していったらどう?今、ここで立ち止まっているわけにはいかないはずだよ。だって未来を作ろうとしているんだもん。時間の経過を先取りするのが長期投資だ。だから、どんどん先を行く。そうすると、同じように先を走っている連中にもちゃんと会うことができる。

    行動するもしないも、皆さんの自由。世の中、できない理由を並べて行動しない人は沢山いる。だけど、そういう人とは付き合ってはいられない。だから、「悪いけど、俺、さっさと先に行くね」ってことで、「お先ごめんね」と。

    (インタビュー前編完:後編は近日中に公開予定です!)