• 企業活動における紛争対応その3 紛争の解決方法

    企業活動における紛争対応に関して、紛争予防、クレーム対応に続いて、今回は紛争が現実化した場合の対応方法をとりあげます。特に訴訟になった場合の戦略の建て方や、企業としての体制整備の仕方を中心に話を進めます。

    紛争解決基準のダブルスタンダード

    企業活動において紛争が具体化したとき、特に、相手方から一定の要求を受ける立場に立ったときには、自社の希望を通して相手方の要求を拒絶することを原則としつつも、現実には、「本来はこうあるべきだけど、早期解決のために相手に譲歩した提案をしよう」とか、「相手の言い分も理解できないではないが、法律で認められる範囲内でしか受け容れられない」という検討をすることがよくあると思います。このような場合、前提として、法的な解決基準と営業上の解決基準という2つの基準があることを理解しておくと、議論を整理しやすくなります。

    法的な解決基準とは、当該紛争を法的に見た場合に想定される解決基準です。例えば、消費者から損害賠償請求を受けている事案において、当該消費者が被った損害やこちら側の過失と因果関係のある範囲などから導き出される賠償額の範囲のことです。裁判になったらどの程度の判決が出るかという目線で判断することになりますので、必然的に、請求をしている側にとっては厳しい基準となります。

    一方、営業上の解決基準とは、得意先との今後の取引継続や顧客との円満解決、あるいはブランドイメージへの信頼維持といった営業上の価値を優先して、法的な解決基準以上の譲歩をした基準のことです。先述の消費者からの損害賠償請求の事案で言うと、法的に見た場合の賠償額の基準に、早期の円満解決のための上乗せをして算出する金額がこれに当たります。ここでは法的な分析を前提としつつも、営業上の効果を優先要素として考慮することになります。

    企業活動は様々な利害関係が複雑に絡み合って維持されていますので、法的な解決基準以上の譲歩をしたからといって、非難されるものではありません。営業上の信用や取引関係を維持して紛争を早期解決できるのであれば、多少余分に譲歩したとしても、企業としては合理的な選択をしていると見ることもできます。しかし、紛争の内容や相手方によっては、営業上の解決基準による譲歩が当然のことと受け取られてエスカレートした要求を受けて紛争が拡大したり、もともと相手方の要求が無理筋でありこちらが譲歩することが正義に反する場合もあります。そのようなことを見越して、法的な解決基準を優先させるべき場合も少なくありません。

    したがって、法的な解決基準と、営業上の解決基準というダブルスタンダードがあることを意識しつつも、どちらかが絶対的に正しいということではなく、いつ、いかなる提案を行うのか、どちらの解決基準を優先するのか、最終的にどのような解決を目指すのかについて、その時々の状況に応じて流動的に、かつ、慎重に選択することが求められます。

    訴訟戦略の建て方

    紛争が深刻化し、訴訟を提起したり逆に相手方から訴訟を提起された場合、依頼した弁護士と意見交換しながら訴訟を進めるべきことは言うまでもありません。その際、紛争当事者である企業としては、どのように訴訟戦略を立てれば良いのでしょうか。ここでは、①訴訟の解決点をどこに設定するのか、②それを実現するための計画と予算はどうなるか、③企業側においてどのような体制を設けたらよいかという三点から見てみましょう。

    1 訴訟の解決点の設定

    筆者も数え切れないほど経験があるのですが、弁護士は依頼者から「この訴訟はどうなるのでしょうか」という質問を受けることが多くあります。もちろんある程度の幅の中で予測を立てることはできるのですが、「訴訟は生きもの」と言われるように、その時々の展開次第で大きく結論が変わってくる可能性が高いものです。したがって、「どうなるのか」という点に固執するのではなく、その後の方針を立てるために、まず「どう解決したいのか」を考えることの方が実は重要なのです。

    すなわち、訴訟を提起する場合はもちろん、訴訟を提起された場合においても、できるだけ早い時期にその訴訟の解決点(ゴール地点)を探ることが求められます。先述した「紛争解決基準のダブルスタンダード」があることを意識した上で、訴訟がどのような展開になるのか、勝訴の見込みがどの程度あるのか、費用対効果の面でどのような予測が立つか、訴訟の影響力はどの程度のものかといった点から、その時点で目標とする解決点を設定することになります。

    この際、訴訟の当事者である企業と訴訟の依頼を受けた弁護士の間で前提とする認識に食い違いがあってはいけません。企業の側としては、弁護士に対してその訴訟に影響しそうな資料や事情について有利不利を問わず包み隠さずに提供し、かつ、率直な希望を伝え、十分なコミュニケーションをとることを心がけてください。

    2 訴訟の計画・予算の検討

    当面の大まかな訴訟の解決点を設定した場合は、次に、それに基づいて弁護士との間で解決までの時間・計画と解決に必要な費用・予算について意見交換し、これらの点について一応の目処をつけます。

    訴訟の計画については、訴訟の進め方、証拠書類の準備、証人の準備、その他の作業や負担の有無・内容といった訴訟特有の準備事項について、弁護士からよくレクチャーを受けて柔軟に対応できるようにする必要があります。予算に関しては、紛争解決のために直接的に必要となる費用(賠償金や和解金など)に加えて、弁護士費用、訴訟提起に要する費用(印紙代、予納郵便切手代、予納金等)、鑑定や調査の費用等が発生します。訴訟に手慣れていないとなかなか把握しづらいものですので、弁護士に大まかな見積もりを作成してもらって、どの程度のコストが生じるのかを把握するようにしましょう。

    訴訟計画と予算のどちらについても言えることですが、訴訟の進展や状況の変化に応じて、良くも悪くも当初の予測とは違う方向に展開していくことが多々あるので、いずれも固定的なものとは考えずに常に吟味して修正していく必要があります。例えば、当初は一応の最低限の和解ラインを設定しつつも全面勝訴を目標とした主張・立証を行っていたが、その後の訴訟展開で敗訴の可能性が濃厚となったことから、敗訴的な和解であることを前提とした和解ラインを設定した上で、和解による解決を目指す訴訟活動を行うというようなことです。

    3 企業内部における体制整備

    弁護士との連絡や証拠の準備など、企業の側で統一的な窓口をもって管理しなければ、円滑に処理することは困難です。大きな企業では法務部のような専門部が対応しますが、中小企業では総務部などの他部署、あるいは経営者や役員が自ら担当することになるでしょう。

    訴訟の進行状況については、常にこの担当者(部門)が弁護士と連絡を取り合って情報共有を図ります。企業内での証拠の収集・整理などの指示も、この担当者が責任をもって陣頭指揮を行うことになります。このように、訴訟担当窓口となるべき人物(部門)は、弁護士とのコミュニケーションを的確に行うこと、現状を正確に把握してあるべき対応を社内で確実に実行することが求められます。

    実際に裁判所で裁判が行われる期日(裁判期日)は、弁護士が代理人として出席する以上、企業の担当者が自ら法廷に行って傍聴することまでは必須ではなく、後日、弁護士から報告書の提出を受けたり説明を受けたりすることで足りることが多いと思います。もっとも、訴訟経過を的確に把握して柔軟に対応するために、期日に参加して、裁判官や相手方代理人はどのような人物か、法廷でどのようなやりとりがなされているか等を直接見聞きしておくことも有意義だと思います。

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