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企業活動における紛争対応その1 紛争予防の重要性

※ この記事は旧サイトで公開していたものを修正してリニューアル掲載しています。

企業がどのように紛争に対応するのかというのは、非常に大きな経営上の課題です。しかし、この点についてしっかりとしたノウハウを身に付けて自信を持って対応できている企業は、残念ながらほとんどありません。そこで、紛争予防、クレーム対応、紛争解決の各点について、要点を整理したいと思います。まず初回は紛争予防についてです。

企業活動を停滞させる紛争

日常的な経済活動の中から利益をあげる企業活動において、一定の割合で紛争が生じることはどうしても避けられないことです。売り手良し、買い手良し、世間良しの「三方良し」が企業活動の理想とされていますが、現実には誰かしらの利益が害されて紛争が生じるケースが少なくありません。

例えば、巨大な経済力を有する大企業は、社会に対して大きな影響力を有しており、私的な企業利益のみを追求することは許されない存在となっています。そのため、法務部などの専門部署を設けて経営判断に法務戦略を組み込んでいますが、それでもなお、紛争を完全に防ぐことはできず、時として社会を震撼させる大規模な紛争が生じます。

一方、中小企業の活動規模や影響力はそれほど大きくありませんが、多くの場合、経営者が法律論とは無縁のところで独断で経営判断をしており、紛争に直面する頻度は相対的に高くなりがちです。しかも、一度紛争が生じると会社全体が対応に追われることとなり、企業活動の効率が一気に低下します。

このように、企業活動において紛争と全く無縁であることは不可能であり、企業規模の大小に関わらず、紛争にどのように対応するかは非常に重要な経営上のテーマであると言えます。紛争を完全に無くすことはできないとしても、できる限り紛争を予防し、できる限り賢く紛争解決することはできますので、企業として紛争を予防するための努力を怠るべきではありません。

紛争の種を取り除くには

一度紛争が発生してしまったら、事後的に解決することはそう容易ではありません。病気の治療よりも予防の方が重要であるのと同様に、紛争対策の最善策は紛争を発生させないようにすることです。どのようにしたら紛争を防ぐことができるでしょうか。

会社内部での情報共有

紛争の種を早期に発見して取り除くためには、企業全体として紛争を察知してスムーズに対応できるような体制をつくることが重要です。誰かが紛争の芽を察知した場合、すぐに上司や同僚に相談して社内で情報共有することで、まずその事例が企業単独で対応可能なのかどうかを見分けることができます。

社内で対応したことがある事例であれば、即座に対応して事なきを得る可能性が高まります。反対に社内では解決困難な事例であれば、しかるべき部署を通じて弁護士に相談しようという判断になるでしょう。いずれにせよ、担当者が誰にも相談できないまま一人で抱え込んで紛争を深刻化させてしまうというのはあってはならないことです。特に、担当者が瑕疵隠すために虚偽の報告をして紛争を深刻化させてしまうというのは、最悪のケースです。

何かしら違和感を感じたらすぐに誰かに相談できる、そのような社内の風土づくりが紛争予防の第一歩です。

記録を残す、書面を残す

紛争に発展する原因として、特に中小企業によく見られるのが、契約書を作成せずに取引をしているケースです。口頭でやりとりしているために当事者双方の認識に食い違いがあったり、細かい契約条件について詰めないままに契約締結してしまったりということがあります。

契約書は取引条件を明確にして合意内容を確認するためのものですが、契約内容の不明確な部分を排除して紛争を予防すること、そして、紛争になった場合の解決指針や解決方法を決めておくことで早期に解決を図ることも、契約書の重要な役割です。取引に際しては必ず契約書を作成するようにしましょう。

同様に、様々な場面での事実経過を記録として残しておくことも、紛争予防策として非常に有効です。いつ、どこで、何が起きて、誰が、どのように対応したのかということを記録として残しておくことで、その当時の具体的な状況を事後検証することができます。それだけで紛争を回避できる場面も少なく無いでしょう。

もっとも、「できるかぎり記録をとりましょう」などと社内で触れ回ったところで、従業員が記録を残す習慣を自動的に身に付けるはずもありません。社内の業務フローの中で記録を留める仕組みを構築し、「記録をとるのも仕事のうち」という状況を作ることが先決です。

紛争予防策としての弁護士の活用

紛争が深刻化して手に負えなくなったので、いよいよ弁護士に相談するしかない…ということで我々弁護士のところに相談が入るのですが、現実には、どれほど有能な弁護士であっても、一度発生してしまった問題を事後的に解決することはそう容易ではありません。相談を受ける弁護士の立場からすると、「もっと早く相談してくれれば手を打つことができたのに」というケースが非常に多いものです。

事前に紛争回避策をとっておけば、発生してしまった紛争を解決するために事後策を講じる場合と比較して、圧倒的に少ない労力で大きい成果をあげることができます。事案の大小を問わず、紛争の種に遭遇したら一言でも良いので弁護士に相談しておくというプロセスを組み込むことで、将来発生するかもしれない大きな紛争を予防することができます。

経営を強化するための紛争予防策として、是非、弁護士を活用していただきたいと思います。

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