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    台湾留学体験記その6
    法律事務所研修

    留学から半年ほどして、中国語でのコミュニケーションにも自信がつき、次のステップとして台湾のビジネスシーンを意識するようになりました。

    旅の恥はかき捨てとばかりに、法律事務所、会計事務所、日系企業、日台交流団体、関連機関といったところを片っ端から訪問していき、挨拶ついでになるべく多くの人と話をするよう努めました。「台湾に来て勉強している日本人弁護士」として良い意味で珍しがってもらえ、さらに新しい人を紹介されたり、話を聞いた先から招きを受けたりして、連鎖的に交友関係が広がっていきました。

    あるとき、知人の台湾人弁護士が所属する法律事務所を訪問する機会がありました。事務所を見学させてもらうと、活気に溢れていてとても良い雰囲気でした。思い切って「研修させてほしい」と頼んでみたところ、意外にもすんなりとOKの返事。そこで、私は、第二子を妊娠している妻が臨月に入るタイミングで大学を四半期の間(三ヶ月間)だけ休学し、その期間を家事育児と法律事務所での研修にあてることにしました。

    研修先の大成台湾弁護士事務所(大成台灣律師事務所)は、中国大陸最大手の大成弁護士事務所の台湾オフィスです。弁護士は20名ほど所属しており、台湾では中規模の法律事務所です(本稿執筆時点で台湾の最大手事務所には弁護士が100名前後在籍しています)。中国大陸系の事務所ですので、台湾国内案件だけでなく中国大陸関係の仕事や中国クライアントの仕事も多く、中国大陸の弁護士資格を持っている弁護士も複数名所属しています。

    研修では、裁判期日、依頼者との打合せ、所内でのディスカッションへの参加はもちろん、弁護士会や法律扶助基金会などの業務関連団体への訪問や、クライアントとの食事や仲間内での勉強会への同席など、大変貴重な経験をさせていただきました。事務所内にいるときも何かと声をかけてもらい、そのおかげで研修中に孤独を感じるようなことはありませんでした。大成台湾弁護士事務所の弁護士及びスタッフの方々には、本当にお世話になり、感謝の言葉もありません。

    研修を通じて、台湾の法律実務だけでなく、台湾と日本の法制度・商慣習の違いや、我々日本人が参考にすべき取り組みなどを見聞きすることができました。少しご紹介したいと思います。

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    財団法人法律扶助基金会

    <訴訟>

    台湾の訴訟は民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟と3つに区分されています。研修中は残念ながら行政訴訟を傍聴する機会はありませんでしたが、民事訴訟と刑事訴訟を傍聴することができました。

    裁判傍聴でまず印象に残ったのは、立場に応じて法服(筆者注:法廷で着る専用の服のこと、台湾では法袍と言います)の色が区別されていることです。日本では裁判官と裁判所書記官しか法服を着ず、その法服も真っ黒な味気ないものですが、台湾では裁判官は青、弁護士は白、刑事事件の検察官は赤(濃いピンク色)の法服を着ます。

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    台北地方法院(台北地方裁判所)

    調書(筆者注:その日の裁判の内容をまとめた裁判所の正式文書のこと)の作成方法も非常に特徴的です。日本の訴訟では調書が出来上がるのは審理が終わった後日ですが、台湾では訴訟期日の進行中に法廷内の大きなモニターに作成中の調書が常時表示されていて、書記官がタイムリーに調書を作成していきます。このやり方ですと裁判所書記官の負担は相当大きいでしょうが、訴訟というものはもともと公平性、透明性を根本原理としていますので、台湾の運用の方が本来的な訴訟のあり方に近く、かつ、当事者にとっても安心ではないかと思います。

    <調停>

    台湾の調停(筆者注:台湾では調解と言います)は、裁判所における調停(法院調解)と地方公共団体による調停(公所調解)の二種類があります。いずれも手続きの仕組みや効力など、日本の調停とほぼ同じです(ただし、公所調解の場合、調停成立後に裁判所の審査を経ないと債務名義としての効力は発生しません)。

    私は、研修先事務所の弁護士が公所調解の調停委員の仕事があるということで、付いて行って手続を見学させてもらいました。調停場所は区民館の会議室についたてを並べてブースに仕切っただけのところで、各ブースでそれぞれ別事件の調停手続が進んでいきます。

    日本では地方自治体での調停という制度は無く、全件裁判所で実施されますので、それなりに厳粛な雰囲気で進んでいきますが、台湾の公所調停はそのような厳粛さはなく、関係者全員がテーブルを囲んで話すところに調停委員も参加しているという感じでした。隣のブースの声が丸聞こえで、ちょっと面食らいましたが、その反面、日本の調停よりも一層、一般市民にとって敷居が低く利用しやすい手続きになっているように思いました。

    <弁護士>

    研修を通じて、言葉や文化の垣根を超えて本当に尊敬できる、多くの素晴らしい弁護士と出会うことができました。事案の分析方法、依頼者や相手方とのコミュニケーションの取り方、書面作成の方法、顧客獲得の方法といった弁護士の仕事の根幹や本質は、日本でも台湾でも全く変わらないということがよくわかりました。

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    台北弁護士会(台北弁護士会ウェブサイトより)

    日本では弁護士人口増加による影響が話題になっていますが、実は台湾では日本よりも急激に弁護士数が増加しいます。もともと台湾の弁護士報酬の相場は日本よりもかなり低い上に、弁護士数の急増で若手弁護士の就職難や報酬水準の低下の問題が深刻化し、本業だけでは生活を維持することもままならい弁護士が増えてきています。そのため、若い弁護士の多くはインハウスローヤーに転身しており、中堅以上の弁護士は純粋な弁護士業務以外のセカンドビジネスを手掛けている人も多いです。

    このような弁護士業界の状況は決して褒められたものではありませんが、怪我の功名と言うのでしょうか、弁護士が旧来的な弁護士業務以外の分野に進出することが多い結果、極めてビジネス感覚が鋭い、優れた経営センスを持つ弁護士が多くいるのも事実です。企業活動に貢献できる弁護士の人材確保という点から見ると、日本よりも台湾の方が先を行っているのではないかと感じるところです。(続く)

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